これまで、リーダーといえば「責任をとること」が役割だと思われてきた。しかし、『リーダーの言語化 「あいまいな思考」を「伝わる言葉」にする方法』の著者である木暮太一氏は、リーダーの本来の役割は、どこに向かって進むべきかを「言葉で明確に伝えること」だと話す。このたび木暮氏に、リーダーが身につけるべき言語化スキルについて、シーン別に対処法や解決策を教えてもらった。(取材・構成/山本奈緒子)
会議をすることが仕事だと思っている
――日本特有のビジネスシーンの悩みといえば“ムダな会議”が挙げられると思いますが、この問題は「言語化」で解決できますか?
木暮太一(以下、木暮):みなさん、そもそも会議で何を話したらいいのか分かっていないんじゃないでしょうか。ゴールが分からないのにどうやってそこに行くかを一生懸命議論していて、かつ、日本的に全員一致しないと終わらない。そういう状態になっている気がします。
――会議のゴールが見えていないと、具体的にどういったムダが生まれるんでしょう?
木暮:どこに行くか明確に示されないまま、どうやって行くかを話し合っているわけです。自転車がいいか、車がいいか、電車がいいか……。自転車だと疲れるよ、車だと渋滞があるよ……、たとえるとそんな感じです。でも、もしもゴールがハワイという話だったら、自転車とかと電車とか、そもそもあり得ないわけです。
ゴールをまず明確に捉えてからどうやって行くかを考えなければいけないのに、そのゴールがあいまいだから、それぞれの思いを発散させるだけになってしまうというか、とっちらかってしまうんですよね。それで議論が長くなる、というのが一番大きいと思います。
――会議の数がやたら多いのも、ゴールが明確化されていないからでしょうか?
木暮:あとはやっぱり、会議をすることが仕事だと思っている方々が多いと思うんですよね。おそらく会議をしていると安心するのでしょう、仕事している感があって。
でも会議って本来は、やってもやらなくていいものなんですよ。ならば、やらないほうがいいはずじゃないですか。だけど好んでやりたがるのは、やっている安心感があるからだと思います。ひたすら定例会議を作りますしね(苦笑)。
会議の意味合いとは“発散”と“収束”にある
――有用な会議もあるんでしょうか?
木暮:いくつかあると思います。会議の意味合いというのは、大きく分けると“発散”と“収束”にあります。言い方を変えると“ブレスト”と“決着”なんですけど。
会議というのは、「あそこに行かなければいけないけれどもどう行ったらいいのだろう? 自分にはアイディアが一つあるが、これがベストな方法なのか分からない」といったときに、みんなで集まって「こうじゃないか」「ああじゃないか」と発散させることに、意味があると思っています。これが“ブレスト”にあたりますよね。
そして次にやらなくてはいけないのが“決着”です。会議でいろいろ案が出たけれども、結局はどの行き方にするか……。このとき、よくリーダーは「判断をする」という言い方をしますけど、「判断」って遅いんですよ。というのもリーダーたちの言う“判断”とは、「すべての材料が揃ったら私がどっちか示します」というすごく悠長なものだから。
加えて、実は他力本願といいますか、めちゃくちゃ逃げ腰な発言でもあるんです。「私は責任を取りたくないからすべての材料を上げてください、それで判断します」という本音が隠れているんですけど、これをやっているんですよね、多くの日本のリーダーは。
――というか、それこそがリーダーの重要な役割だと思っていますよね。
木暮:でもすべての材料なんて出揃うわけはない。要は自分が責任を負いたくないから、「出揃うまで待っています」と先延ばしをしているだけになってしまっています。
だけど実際には、どうしたってよく分からないことはあるし、賛否両論はあるし、一長一短もある。それでも「こっちにする、この話はこれで終わり!」という決着をつける必要はあるんですよね。そういった目的の会議も必要かな、とは思います。
裁判では、いろいろお互いにあっても最後は裁判長が「はい、これで終わり」と判決を下すじゃないですか。本当は裁判長みたいに決着をつける人がいなきゃいけない。でも誰か一人が決めてしまうと、不満が出てしまう。だからみんなを集めて、みんなで決めようとする。そういう会議は意味があるのかなと思います。