これまで、リーダーといえば「責任を取ること」が役割だと思われてきた。しかし、『リーダーの言語化 「あいまいな思考」を「伝わる言葉」にする方法』の著者である木暮太一氏は、リーダーの本来の役割は、どこに向かって進むべきかを「言葉で明確に伝えること」だと話す。このたび木暮氏に、なぜリーダーには言語化能力が必要なのか、言語化によって生まれる成果とは何なのか、など詳しく聞いた。(取材・構成/山本奈緒子)
今のリーダーに求められる「言語化」スキル
――これまで良いリーダーや上司といえば、余計なことは言わずトラブルが起こったときだけ出てきて対処する、というイメージがありました。しかし今、リーダーにもっとも求められるものはそういった「責任を取ること」ではなく、「言語化」なってきているのでしょうか?
木暮太一(以下、木暮):僕は本の中で「言語化とは明確化である」と定義していますが、そもそも明確化しなくていい、という理由はないんですよね。
明確か不明確かどっちがいいかと言ったら、絶対に明確なほうがいいじゃないですか。それをみんな、今までサボってきただけなんです。「言わなくても分かるだろう」とか、「背中を見て学べ」などと言って。
そんな風潮がずっとあって、それに部下たちは耐えてきた、というのが実情だと思います。
「言葉にしなくてもいい時代」からの変化
――しかし、いい加減それではダメだよね、という時代になってきているということですね。
木暮:今って、ビジネスにおいてそもそも僕らは何をやらなければいけないか、ということがかなり見えにくくなっている時代だと思うんですよ。高度成長期と比べて考えてみると、明確にこれをやらなくてはいけないというものがない。
だって、もはや生活に足りていないものってほぼないじゃないですか。新商品を出すにしても、「明らかにこういうものが必要だ」というものはもう見当たらない。
いろいろやり尽くしてしまっているので、これから何をやらなきゃいけないのかということが誰も分かっていない、という状態だと思うんです。
昔は、言わなくても分かったんですよ、どういう方向に進めばいいのかということが。車やテレビが高くて買えない人が多いからコストダウンして商品価格を下げよう、インターネットが遅いからもっと早い回線を整備しよう、とか。でも今は、そういったことが全てできてしまっている。だから、じゃあこれからどうしていけばいいのか、ということがみんな分からないわけです。
だけど会社からは「進め」と言われて、その方向も「何となく分かるだろ」という感じだから、現場を引っ張るリーダーにしても、部下にしても、お互いに「そんなこと言われても分からないよ」という文句が出てきてしまっているんじゃないかなと思います。
そもそもゴールがあいまいになっている
――たしかにかつては「物質的に豊かになっていこう」というような共通認識がありましたから、明確化する必要がなかったわけですね。
木暮:今は共通認識以前に、誰もゴールが分かっていないというか、ゴールがそれぞれのゴールになっています。だからみんな、何となく「ゴールはこうかな」とイメージすることはできるけれど、それが合っているかどうかは分からないわけです。
確信が持てないからこそお互い明確にやり取りをして決めていかなければいけないのに、それを言わないからチグハグになってしまう。個人のレベルで言うと、みんな不安で仕方がない、というのが本音だと思います。