過敏性腸症候群。便がゆるくなりやすくなり、1時間半の通学がつらい状態になったのだ。
「せっかく入った学校なのだから」と、母親の律子さんは懸命にフォローした。とにかく、学校に着けば何とかなる。電車での通学が難しいのならば、車で送っていってやろう。そうすれば、車の中で休んでいることができる。毎日片道2時間の道のりを車で送迎、2年生の1学期はこうして何とかやり過ごした。
だが、賢雄君の心と体調が整うことはなく、2年生の2学期からは公立に転校、賢雄君の中の“根雪”はそこからまた冷たさを増していき、登校2、3日で不登校となってしまった。
ある公立中学の教員に話を聞いたことがある。
「私立崩れが実は一番大変なんです」
中学の段階で私立中学から転校する生徒の場合、何かしらの困難を抱えてやってくることが多いからだ。賢雄君の場合もまさにそうだった。
さんざん勉強してきたのに
どうしてこんな目に遭うのか
「今までの時間は何だったんだ。何のために塾に通い、人よりも勉強してきたんだ……」
賢雄君の頭の中にぐるぐると現れるのは「何のために……」という思い。地元の中学に転校するも、学校にはなかなか行けず、引きこもりとなった賢雄君は昼夜が逆転。はじめは家族のいる時間にリビングに下りることもあったのだが、そのうちにほとんど顔を合わせなくなった。
そんな中、2歳違いの妹も中学受験をすることに。これが賢雄君の反抗期だったのか、自分でも驚くほどの憤りの気持ちが湧き起こったのだという。
「妹にも僕みたいな思いをさせるのか!」
怒りを両親にぶちまける日々。だが、妹本人は、
「私、ここの学校に行きたい」
と志望校を早々に決め、受験を難なくクリアして、希望する学校に通い出した。
「なんだ、僕だけか、こんな気持ちになるのはと、だんだんと自分が情けなくなって、さらに引きこもってしまったんです」
夜な夜な冷蔵庫の中身を全部リビングにぶちまけるなど、賢雄君は今の彼からは想像もできないような傍若無人な態度をとっていた。