「学校のテストはよくできていたのですが、それは井の中の蛙というか……学内での成績がよくても、模試の偏差値は50にいくかいかないかというところでした。模試では結果が出せなかったんです」

 好きでやっていたはずの勉強が、この頃からだんだんと嫌いになりだしていく。

 賢雄君は、模試で結果が出なくても、学校では好成績をキープしていた。だからこそ、親は「この子の成績に見合う学校へ」と思っていたのかもしれない。首都圏には受験をして入る中学は山のように存在する。

 律子さんの志望校選びを見ていても“何がなんでも偏差値の高い学校に!”というような教育虐待的な雰囲気はまったくと言っていいほど感じない。また、模試の成績が振るわなくとも、それほど強く叱ることもないようだった。

受験はいつまで経っても
他人ごとのような感覚

 一方、賢雄君の気持ちはといえば、受験をすることを受け入れてはいるものの、まだどこか人ごとに近い感覚。母親と共に行った説明会でもとくにこれといった志望校はなく、流れに任せて偏差値的にも見合っていると塾長が勧める学校を第一志望校に据え、受験を進めることにした。

 この中学には大学受験でいうところの“専願者”向けの入試があった。合格した場合、必ず入学することが条件だった。賢雄君はこの入試を利用して無事に合格。このとき、不思議なことが起こる。

「普通は合格発表まで合否はわからないと思うんですが、通っていた塾の塾長とそこの学校の先生がとても親しかったようで、合格発表の前に塾経由で合格を知らされたんです」

 事前に合否を聞けるほどの強いパイプをもつということは、賢雄君が通っていた塾は、それだけ多くの児童をその中学に送り込んできたということだろう。

 塾の講師も人間だ。好きな学校があるのもわかる。講師によってはやたら同じ学校を勧める人もいる。それはその人の好みの問題。勧めることをやめろということはできない。

 だが、親は講師の言葉を鵜呑みにすると痛い目を見ることがある。本当にわが子にとっての最善校なのか、必ず親も確かめる必要があるだろう。その後の彼の話を聞くと、そう思わずにはいられない。

第一志望校に合格するも
待っていた生活は……

 入学したのは自宅から1時間半はかかるという共学校。入り口の偏差値の割には出口の大学合格実績がいいことで有名な学校だ。成績を伸ばすための仕掛けは学校により違うのだが、いずれにしても、何もしなくて合格実績に結びつくことはない。この学校の場合は、強制的にたくさん勉強させることで生徒の成績を伸ばす方法をとっていた。