親は誰しも子どもの幸せを願うものだ。幼児教育や習い事、中学受験もその親心あってのものだろう。しかし、それがかえって子どもを苦しめ、悲劇的な状況を招くケースも少なくない。教育熱心が“虐待”とならないために、親が肝に銘じておくべきこととは。特集『最強の中高一貫校&小学校・幼児教育』(全18回)の最終回では、教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏の寄稿をお届けする。
「あなたのため」は
教育虐待の呪文
教育の名のもとに親が子どもに対する人権侵害を行うことを、俗に「教育虐待」と呼ぶ。
子どもの受容限度を超えた受験勉強をさせるために精神的・肉体的苦痛を与えて追い込む。前提として、受験・進学についての本人の意志は軽視・無視され、しかもその選択があたかも子ども自身によるものであるかのようにとりつくろわれる場合が多い。ただし、やっている親に人権侵害の自覚はない。すべては「あなたのため」である。
医学部進学を強要され、生活のすべてを管理され、9年間も浪人を重ね、それでも望みを叶えることができず、なじられ続けて生きてきた30代の女性が、2018年1月、母親を殺害した。
求刑は懲役20年だったが、「成人後も行きすぎた干渉を受け、相当に追い詰められた末に犯行に及び、経緯には同情の余地がある」として判決は懲役10年。殺人の加害者が「教育虐待」の被害者でもあったことを認めた判決といえる。
16年8月には、中学受験生で小学6年生の息子の胸を父親が刃物で刺し殺してしまう事件があった。約束した時間に勉強を始めなかったことに逆上しての犯行だったが、父親は日ごろから刃物をちらつかせ、子どもを脅して勉強させていたという。
いずれも「教育虐待」の末の悲劇であるが、教育虐待が死を招くケースは、殺人だけではない。自死に至るケースはおそらくずっと多いが、それらが報道されることはほとんどない。若者の自死の一つとして数えられるだけである。
教育虐待をしてしまう親は大きく二つのタイプに分けられる。