大ヒット作『成瀬は天下を取りにいく』は
楽しいばかりではなかった
――主人公の40歳男性・猪名川健人は在宅ライターです。かつて在宅ライターをされていた宮島さんご自身と、猪名川が重なる部分はありますか?
重なる部分はあります。でも、ケンちゃん(=猪名川健人)が丸ごと私ってわけではないです。
――宮島さんは在宅ライター時代にマネーの記事を書かれていたそうですね。
はい、それはもうたくさん。楽天のメディアで書いていたんです。
――作中の猪名川は、自分の書いている記事に対して「こんなものに価値があるのか」と悩むじゃないですか。宮島さんも当時、同じことを感じられていたのでしょうか。
そうですね……。私は、マネーの記事は署名記事で書いていましたけど、署名記事ではない文章もいっぱい書いてきました。マネー以外のジャンルの、名もなき記事というか。
そういうのって、自分が体験していないことも記事にしないといけないんです。そこにやっぱり責任が持てないというか、それは嫌でしたね。この感覚はケンちゃんにつながっているかもしれません。
――マネーの記事と小説では同じ「書く」といっても違いますか。
全然違いますよ。マネー記事は書くことがある程度決まっているので、割とスラスラ書けます。
小説は、もう、書けないです! 書けないことが普通で、書けない中で何とか書いているという感じ。本当に大変なんです。楽しく書いている時って本当に全然なくて、ずっと苦しみながら書いている。
『成瀬は天下を取りにいく』もそうです。ああいう楽しい小説だと、「さぞ楽しんで書いているだろう」と思われがちですが、やっぱり仕事なので、楽しいばかりではないですね。