大ヒット作『成瀬は天下を取りにいく』は
楽しいばかりではなかった

――主人公の40歳男性・猪名川健人は在宅ライターです。かつて在宅ライターをされていた宮島さんご自身と、猪名川が重なる部分はありますか?

『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈の新作テーマは婚活!影響を受けた「意外な人気芸人」の名前宮島未奈(みやじま・みな) 1983年静岡県生まれ。滋賀県在住。京都大学文学部卒業。2018年「二位の君」で第196回コバルト短編小説新人賞を受賞(宮島ムー名義)。2021年「ありがとう西武大津店」で第20回「女による女のためのR-18 文学賞」大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞。2023年、同作を含む連作短篇集『成瀬は天下を取りにいく』でデビューし、翌年本屋大賞を受賞した。 写真:文藝春秋

 重なる部分はあります。でも、ケンちゃん(=猪名川健人)が丸ごと私ってわけではないです。

――宮島さんは在宅ライター時代にマネーの記事を書かれていたそうですね。

 はい、それはもうたくさん。楽天のメディアで書いていたんです。

――作中の猪名川は、自分の書いている記事に対して「こんなものに価値があるのか」と悩むじゃないですか。宮島さんも当時、同じことを感じられていたのでしょうか。

 そうですね……。私は、マネーの記事は署名記事で書いていましたけど、署名記事ではない文章もいっぱい書いてきました。マネー以外のジャンルの、名もなき記事というか。

 そういうのって、自分が体験していないことも記事にしないといけないんです。そこにやっぱり責任が持てないというか、それは嫌でしたね。この感覚はケンちゃんにつながっているかもしれません。

――マネーの記事と小説では同じ「書く」といっても違いますか。

 全然違いますよ。マネー記事は書くことがある程度決まっているので、割とスラスラ書けます。

 小説は、もう、書けないです! 書けないことが普通で、書けない中で何とか書いているという感じ。本当に大変なんです。楽しく書いている時って本当に全然なくて、ずっと苦しみながら書いている。

『成瀬は天下を取りにいく』もそうです。ああいう楽しい小説だと、「さぞ楽しんで書いているだろう」と思われがちですが、やっぱり仕事なので、楽しいばかりではないですね。