『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
児童精神科医による大ヒット書籍のコミカライズ版として、くらげバンチ(新潮社)で連載されている(原作/宮口幸治、漫画/鈴木マサカズ)。今回は、第5話「妊娠」から、原作の立命館大学教授で児童精神科医の宮口幸治氏が漫画に描けなかったエピソードを紹介する。
非行に走る少女、傷害や暴力が多い背景にある特徴
今回の舞台は女子少年院です。
女子少年院は男子少年院に比べて、その実態はあまり知られていません。女子少年院は全国に9カ所、『令和7年版犯罪白書』によると女子の年間入院者数は158人で、男子の約10分の1でした。
入院する少女たちの特徴は、非行の前に何らかの被害(性被害など)に遭っているケースが多いこと、男子に比べて覚醒剤取締法違反が多いことなどが挙げられます。少女の中には、好ましくない男性の影があり、付き合っていた男性の覚醒剤の費用をまかなうために、売春させられていた…といったケースも少なくありません。
女子少年院の特徴としては、「女性社会」であり、女性法務教官が職場のほとんどを占めることです。そんな女性教官を少女たちは母親のように慕うこともあります。
第5話に登場する門倉恭子(仮名)は、入院時に15歳で妊娠8カ月という設定です。実際に妊娠して少年院に入院してくる少女はいます。妊娠初期であれば医療少年院で中絶手術を受けることもありますし、本ケースのように出産することもあります。
恭子の罪状は、傷害・暴行で中学校の担任女性教師に暴力をふるい、肋骨の骨折と網膜剥離の重症を負わせたことでした。意外かもしれませんが、非行男子は窃盗が最も多いのですが、非行女子は傷害・暴力が多いのです。
私は女子少年院には1年ほど勤務しましたが、非行少女たちと面接する中で女子に傷害・暴力が多い背景を強く実感してきました。
暴力の被害者は後輩の女子などで、同時に非行少女が、それまで深く目をかけ、守ってきた相手でもある場合も多々ありました。その愛情は男子同士の関係とは比べものにならないほどです。しかし、その相手が何らかの理由で自分を「裏切った」と感じた瞬間、激しい怒りに反転するのです。まさに愛情の裏返しとも言えるでしょう。
恭子の母親にはDVの傾向があり、暴力のモデルともなっていました。また恭子のIQは79と境界知能レベルでした。
ここで境界知能について整理しておく必要があります。「境界知能」とはおよそIQが70~84で知的障害には該当しないものの、一定の支援が必要とされる分類です。人口の約14%が該当するとされ、国内では約1700万人、学校の35人のクラスに例えると約5人いることになります。
境界知能の子どもは学校にいる間は先生の目も届く可能性もありますが、いったん社会に出ると境界知能に気づかれることはほぼありません。仕事がなかなか覚えられない、会社での人間関係が上手くいかない、といった理由で職を転々とすることもあります。もちろん境界知能の人たちが犯罪者になるわけではありませんが、悪意ある人たちに騙され利用され、最悪、犯罪に巻き込まれることもあります。
恭子も境界知能をもちながら少年院の中で出産を迎えることになります。
原作者である宮口幸治は、児童精神科医として、実際に医療少年院の勤務歴があります。その経験から書いた『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)をマンガ化した作品。マンガの続きは「ケーキの切れない非行少年たち」でチェック!
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社







