「あまり描き込み過ぎないように」
読者に考える余地を残したい
――とはいえ、先ほどの話でも、あらゆる資料を参考に想像力を膨らませて書かれるのは、さすがだなと思いました。例えば、婚活パーティーのシーンで女性が「源氏パイ」みたいなイヤリングをしていた、といった描写はどうしたら生まれるのでしょうか。
普段から人間観察はしていますよ。ただ、源氏パイはご当地ネタで入れています。源氏パイって浜松の会社じゃないですか(編集部注:静岡県浜松市にある三立製菓のハート型パイ)。ケンちゃんの思考は「浜松の人」なので、そのイメージから、イヤリングに反映したんです。
その後もイヤリングは出てきます。それまで女性と出会うこともほとんどなかったケンちゃんが、女性を見るようになって、イヤリングに目がいくようになった。最初は全然見ていなかったけど、章が進むうちにイヤリングに目が向いていくんです。
――そういうことだったんですね! 読み手の想像力も掻き立てられます。そうやって、読者に想像を巡らせてもらいたいと思って、書かれているのですか?
「あまり描き込み過ぎないように」とは思っています。『婚活マエストロ』の最後も、もっと書くことはできたけど、書き過ぎないで終わったというか。あとは読者が考えてくれたらいいなとは思いました。
「つまんないよね」って思うんです、作者が決めちゃうと。それよりも、読者に委ねて、読者に考える余地を残したい。私の中で10説明できるところを、9くらいまでにしようって。
それにしても、作家に憧れてなったわけですけど、いざ作家業を実際にやってみたら大変だなと思います……。