金融庁が要望した
「上場株式等の相続税に係る物納要件等の見直し」とは
NISAの誕生をきっかけに、株式投資に関心を持った人は多いであろう。活況な株式市場を眺めていると、投資額を増やしたくなるものだ。しかし、株式を保有したまま自身が亡くなった時には相続税の課税対象となることは押さえておくべきだろう。
株式を相続人が相続したら、そのまま保有するか、売却するか選択できる。相続税が発生する場合には、原則現金で納税を行う必要がある。相続税は株式以外にも預貯金や不動産なども対象となるため、驚くほど高額の課税が生じる人もいる。そのため、現金の用意に頭を抱える人も少なくない。
そこで、金融庁は24年8月30日に発表した「上場株式等の相続税に係る物納要件等の見直し」の中で、相続税の「物納」に係る手続きについて、納税者が利用しやすいよう特例措置を検討するよう要望した。先月コラムで触れたように相続税は滞納者が増加しており、物納制度の見直しで改善をはかる構えだ。
現在の物納制度はさまざまな条件が課せられており、利用しにくい。「老々相続」も多くなっている今、相続税の納付に手間取っているうちに更なる相続が発生するケースもある。仮に上場株式であれば国が物納で受け取っても容易に換金できる。株式を保有する人は年々増加しており、相続税の滞納を少しでも抑制・解消するために上場株式などを物納に使えるようにしたい、というのが金融庁の狙いだ。
また、株式の相続税評価方法も見直しを進め、相続人が相続した株式を売り急ぐ現状を改善したいという要望も行われた。
相続財産に占める有価証券の割合は
過去9年間で約1.73倍も増加
「上場株式等の相続税に係る物納要件等の見直し」では、被相続人の「相続財産の構成」が変化している点についても触れている。現金や預貯金は依然として相続財産の多くを占めているが、上場株式を含む有価証券も相続財産に多く含まれるようになった。相続財産のうち、有価証券の割合は2013年では2兆676億円だったが、2022年は3兆5702億円にまで伸びており、過去9年間で約1.73倍増加へしている。
NISA拡充などをきっかけに、株式を使った資産運用は増えていると考えられ、相続時には株式相続をする人も増加しているのだ。
現在株式を運用しており、長期的に保有する可能性がある人は、相続対策を進めておくことをおすすめしたい。ロックをかけたスマホを使い、ネット証券を介して運用しているケースは多い。その場合、相続人が被相続人の保有株式を見落としたまま相続税申告をしてしまう可能性がある。
仮に税務調査から指摘され、追加で納税が必要となった場合には、最大で納付税額のうち300万円を超える部分に対して30%が課税されてしまう。相続税申告・納付の遅れや漏れは何のメリットももたらさないため、注意してほしい。