「よく歩く人はうつ病になりにくい」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)
歩くほど心が軽くなる?
「最近、なんとなく気分が沈んでいる」
「ストレスで病みそう」
そんなときに、気軽にメンタルを回復できたらうれしいですよね。
近年の研究によると、「歩く」ことがうつ病の予防やメンタルヘルスの向上に大きく関わっていることがわかってきました。
ウォーキングのような軽めの運動から、ジョギングや登山のような少しハードな運動まで、歩行は気分転換やストレス解消だけでなく、うつ病や不安障害などの精神疾患のリスクを下げる可能性があるのです。
実際、脳や心だけでなく「足」から生まれるエネルギーが、幸福感や心の安定に結びつく。そんな研究報告も増えています。
今回は、「歩くこと」と「メンタルヘルス」の意外な関係をご紹介します。
メンタルヘルスと「歩行」の関係
「あなたは歩くことに自信がありますか?」
この問いに「はい」と答える人ほど、メンタルが強い傾向にあるという研究結果があります。
権威ある医学誌「JAMA Network Open」に掲載された研究(参考文献1)では、うつ病や不安を感じやすい人ほど「自分の歩行能力」に自信を持ちにくいことがわかりました。
うつ病や不安障害、統合失調症などを抱える人も、実際にはまったく歩けないわけではありません。
しかし、「体を動かすのが難しい」「歩くのがつらい」と感じることで外出する機会を失い、人との交流に自信をなくすなどして、メンタルがさらに悪化する悪循環を招くとされています。
こうした状況からも、私たちの心の健康は「歩行」と深いかかわりがあることが分かります。
“歩く”ことでメンタルヘルスを改善する方法
うつ病や不安を抱える方は、歩く力そのものよりも「歩く自信の低下」がメンタルに大きく影響することがわかっています。
一方で、研究によると「歩くことへのハードルを下げる」ことで、メンタルヘルスを整えやすくなる方法もあるようです。
たとえば、次のような工夫を取り入れてみましょう。
1.歩きやすい環境を整える
街路樹の多い道や雨天でも歩きやすい道路などを日常に取り入れることで、外に出る気持ちのハードルが下がります。
2.アプリやゲームの活用
スマホの健康管理アプリや位置情報ゲーム(ポケモンGOなど)を使い、楽しくウォーキングを続けられるよう工夫してみましょう。
3.毎日少しずつ歩く習慣
「1駅手前で降りる」「いつもより少し遠回りする」など、小さなチャレンジを積み重ねることで、散歩が習慣化しやすくなります。
このように歩行への抵抗感を小さくし、少しでも歩く時間を増やすことで、うつ病や不安症状の予防や悪化防止につながると考えられています。
たとえ小さな変化でも、積み重なることで大きな効果が期待できます。
「歩く」ことでメンタルヘルスを整えよう
気分が落ち込んでいたり、不安を抱えているときほど、「歩くなんて無理…」と思いやすいかもしれません。
しかし、だからこそ“歩く”ことが、心の健康を守る鍵になる可能性があります。
もちろん、歩いただけですぐに悩みが消えるわけではありませんが、朝日を浴びながらの散歩や、好きな音楽を聴きながらの夕暮れウォーキングは、少しずつストレスを和らげ、気持ちを軽くしてくれるはずです。
「歩くのが苦手」「気分が乗らない」というときは、短い距離やゆっくりしたペースから始めてみてください。
ほんの数分でも、一歩を踏み出すことで明日が少しだけ軽くなるかもしれません。
心が疲れたときこそ、ぜひ“歩く”というシンプルな方法を試してみてください。
あなたの一歩が、新しい気持ちへの第一歩につながるでしょう。
参考文献:(1)JAMA Network Open. 2024;7(12):e2451208. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.51208o1
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』の著者・精神科医いっちー氏が特別に書き下ろしたものです。)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。