「創作活動はメンタルヘルスに良い影響を与えます」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

【アート、ダンス、音楽…】「創作活動」がメンタルヘルスに良い影響を与える、たった1つの理由Photo: Adobe Stock

メンタルヘルスとアートの関係

「絵を描いていると気分が落ち着く
「ピアノを弾いていると嫌なことを忘れられる
「文章を書いているうちに頭の中が整理される

 そんな経験はありませんか?
 近年、ストレス社会と呼ばれる現代では、音楽やアート、ダンスなどの「創作活動」がメンタルヘルスに良い影響を与えると注目を集めています。

 SNSやネットの発達によって、芸術を表現することは、専門家だけの特権ではなく、誰にでも開かれている「こころの処方箋」になりました。

 今日は、そんなアートがどうしてメンタルヘルスに良いのか、エビデンスも交えて紹介したいと思います。

なぜアートがこころを癒すのか?

 私たちの脳は、創作活動や芸術に触れたときに特別な反応を示すことがわかっています。
 美しい絵画に見とれたり、好きな音楽に耳を傾けたりするとき、脳内では報酬系と呼ばれる領域が活性化し、「快感」や「安心感」をもたらす神経伝達物質が分泌されます

 これにより、ストレスを感じたり、悩む気持ちが抑えられ、緊張がやわらぐといったメンタルヘルスに良い効果が期待できます。

 さまざまな研究機関でも「芸術活動がメンタルヘルスの改善に有用である」と発表されています。

 たとえば、音楽療法は、不安症状や鬱症状の軽減に有効であるという研究があったり、英国の研究グループによる調査(Journal of Public Health, 2016年)によれば、週1回以上アートギャラリーに足を運んだりと、美術活動に参加することで、精神的な活力が向上し、ストレスレベルが低下する傾向が示されています。

 私たちは日常の中で、あえて非日常を感じられるようなアートに触れることで、心が癒される特性を持っているのです。

「上手」でなくてもいい。
自分だけの表現を楽しむ

 芸術表現と聞くと、「プロの画家や音楽家じゃないから…」「私は絵が下手だから…」と身構えてしまう人も多いかもしれません。

 ですが、セラピーとしてのアートでは「完成度」や「他人の評価」は二の次と考えます。

 大切なのは「創作する過程」であり、自分の内面に向かいあったり、自分を表現することを楽しむプロセスこそが肝要なのです。

 絵を描くとき、言葉ではうまく説明できない複雑な感情も、形や色として表現できます。
 日記を書くとき、頭の中をぐるぐる回る不安や悩みが、文字になり紙の上に固定されることで、自分自身を客観視しやすくなります。

 こうした「自分と向き合う」作業をする時間を生み出すことで、感情の整理やストレスを吐き出すといった大切な時間になるのです。

アートとは身近な存在

 では、具体的にどんなアート活動がメンタルヘルスによいのでしょうか?
 いくつか例はお伝えしますが、それほど難しく考える必要はありません。

1. 音楽を聴く・奏でる:Youtubeで好きな音楽を聴くだけでも気分転換になります。さらに、簡単な楽器やアプリを使って音作りを楽しむことで、主体的な体験によって自信が高まります。カラオケで好きな歌を熱唱するだけでも効果はあるでしょう。

2. ぬり絵やスケッチ:最近はとても精巧で美しい大人向けのぬり絵やスケッチが手軽に始められます。色彩を選ぶ過程やペンを動かすリズムは、意外なほど心を落ち着かせますので、まずは本屋さんに足を運んでみましょう

3. 執筆活動:文章表現が好きな人は、毎日短い文章を書くことからスタートしてみると良いかもしれません。上手に書く必要はありません。感情を書き留めることで、見えないモヤモヤや感情に名前を与えられます。それを文章で表現するだけでも、あなたらしい作品になるでしょう。

4. ダンスや身体表現:身体を使った表現もアートの一種です。いくつになってもダンスで社交性は高まるとされていますし、ヨガや即興的な動きを通して、体と心を解放し自己表現することで、ストレスを軽減することにつながるでしょう。

自分を理解するためのアート

 創作活動は、一方的に与えられるストレスケアとは異なり、「自分で自分を癒す」手段です。

 好きな作品を通じて「自分は今、何を感じているのか? なぜこの色を選んだのか? この曲はどんな気分に合うのか?」と問いかける過程で、自己理解が深まり、セルフコンパッション(自分への優しさ)を育むことができます。

 忙しく、情報過多な日々だからこそ、ほんの少しでも創作に向き合う時間をとってみてください。
 それは、あなたのこころに小さな隙間を作ってくれて、日々の活動のなかに小さな余裕を生んでくれるでしょう。

 アートは決して遠い世界のものではなく、今この瞬間、あなたの心と身体が呼応する「居場所」を作るためのプロセスなのです。

(本稿は、頭んなか「メンヘラなとき」があります。の著者・精神科医いっちー氏が特別に書き下ろしたものです。)

精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。