「いかなるときも『心が安定している人』が自然とやっていることを紹介しましょう」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)
「心を鍛える」ということ
「鍛える」と聞くと、アスリートのように厳しいトレーニングが必要そうに感じますよね?
ですが、筋肉とはちがってメンタルを鍛えるためには「育てる」ような、気軽な感覚で捉えたほうが効果的です。
メンタルとは、「気の持ちよう」だからと気軽に捉えられることも多いですが、実際にはじっくりと時間はかかるけれど、着実に変えていけるものなのです。
植物に水をあげるように、日々心に栄養を与えながら少しずつ成長させていく。
そんなメンタルを育てるための方法についてご紹介しましょう。
「自分を小さく甘やかす」は難しい
まずは、自分に「小さなご褒美」を与えるところから始めてみましょう。
メンタルを病んでいるときほど、ついつい小さなご褒美や楽しみを忘れがちです。
人間は大きな達成感以上に、日々のなかの小さな達成感や、喜びを感じたとき、たとえば仕事のメールチェックが終わった後のコーヒータイムなど、ふとしたときの自分へのささやかなご褒美に幸福感を感じます。
そうやって息継ぎのようにストレスから抜ける時間というのは、メンタルを保つためにも大切なのです。
ですが、日常のストレスに埋もれてしまうと、自分のための息継ぎの時間を忘れがちで、息継ぎをするように「小さく自分を甘やかす時間」を意識的に取る習慣をつくっていくと、心が少しずつ強くなっていくのを感じられます。
自分の感情は「気の荒いペット」
感情を自分から切り離して「気の荒いペット」として扱ってみるのも、感情をコントロールするのに効果的です。
たとえば、怒りや悲しみといった感情って、意識しなくても突然わっと湧き上がりますよね。
そんな感情を「またコイツがやってきた!」と、あたかもかわいいペットが訪れたかのように受け入れてみる。
そんなふうに頭のなかで実況する癖をつくることで、感情を客観的に捉えられるようになります。
そうすることで、自分の感情とちょっとだけ距離を置いて接することができるので、感情に振り回されにくい癖を自分につけられます。
怒りっぽい「ブルドックのようなイライラ犬」や、しょんぼりしてしまう「悲しみウサギ」を、自分のなかでイメージすることで、上手に付き合っていけるきがします。
そうすれば自然と心の余裕も増えていきます。
これは、感情を無視したり抑え込むのではなく、うまく「飼いならす」方法なのです。
日々を彩るのも「小さな刺激」から
「小さな刺激」も毎日のルーティンに取り入れてみると楽しいです。
ふだんとはちょっとちがう出来事を探して、それを記録することで「いつもとおんなじ毎日」を変化させるイメージが湧いてきます。
たとえば、「今日は新しいカフェを見つけた」「見たことのない花が咲いていた」「久しぶりに友達から連絡がきた」など、どんな小さなことでもOKです。
寝る前に、今日の「小さな刺激」を振り返るようにすることで、「こんなことがあったんだ」と、まるで自分をもう一人の自分が見ているような感覚で、自分の一日についてより深く感じられるでしょう。
毎日「明日が来るのが怖い」と感じる人ほど、「刺激だけ」を追っていくことが効果的だったりします。
文武両道! 強いメンタルには身体も大切
体と心は切って離せない関係です。
ずっと病気で痛みがあると気持ちがうつうつとしますし、落ち込んだままでいると活動量が落ちて体力も落ちてしまいます。
心と体は互いに支え合っており、どちらかが調子を崩すともう片方も影響を受けてしまうのです。
ですから、メンタルを整えるためには、体にも目を向けましょう。
良い睡眠を確保すること、健康的な食事を心がけること、軽い運動を取り入れること。
体が元気であること=心も安定しやすい、という方式が成り立ちます。
もし運動が苦手でも、ちょっとしたストレッチや意識して呼吸をするだけでも効果があるので、自分に合ったペースで続けられることから始めてみてください。
心を「育てる」ための最後のステップ
心を育てるために最後にとても大切なこと。
それは「仲間を見つけて、シェアする」ことです。
人間は「誰かに共感してもらう」ことで、心や体の負担を軽減できる特性があります。
心が疲れたときや、どうしようもなく落ち込んだときに、だれかに話しを聞いてもらうだけでも心は軽くなるものです。
酒屋や教会など、よく知らないひとでも悩みを打ち明けるだけで、気持ちが軽くなるのも同じです。
家族や友人、同僚、時には専門家でも、誰かに話すことで自分だけでは気づけなかった新しい視点が見えてくることもあります。
心をもっとも育ててくれるのは自分ではない誰かかもしれませんよ。
メンタルを育てるために特別な時間やお金は必要ありません。
日々の中でほんの少しの工夫をするだけで、心は少しずつ柔軟に育っていきます。
まるで大切な植物に水やりをするように、大切なペットと時間を共有するように、心に栄養を与え、メンタルを育てていきましょう。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』の著者・精神科医いっちー氏が特別に書き下ろしたものです。)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。