脳細胞は生きているが
臓器がうまく機能していない
稲盛 こういう大組織は、直感的に言うと、ちょうど人間の体と似ています。
人間の体は、何十兆という細胞で出来上がっています。そういう細胞が集まって、心臓や肺、胃や腸や肝臓といういろいろな臓器から血管に至るまで形成し、それが部分的に一生懸命、生命維持活動をやっていながら、同時に人間の体全体を円滑に生かしていくために協力をしているわけです。
つまり、巨大な組織ですと、それぞれの現場、現場が自主的にかつ健全に生きていて、同時にそれが相互に連絡、連携して、全体を正常に機能させている。
そういう目で見ますと、JALの場合には、脳細胞にあたるところが一部生きているが、そこには、各現場から数字としての情報がまったく上がってきていない。それでおそらくは、これまでの経験に頼って、いろいろ指示を出していたのだろうと思ったわけですが、指示を受ける側の組織細胞は、それで自分のところが本当にうまく機能するかわからないまま動いている感じがした。
その結果、すべての臓器がうまく動いていない。
ましてやそれがチームワークを発揮して、体全体を健康に活動させるような状況にはなっていないと、まずそう思ったわけです。
組織を蘇生させるために
まず必要だった経営哲学
稲盛は、経営破綻の原因は頭と体がバラバラの組織、会社としての一体感の欠如にあると見破った。そこからの手の打ち方が、稲盛改革の稲盛改革たるゆえんである。いきなり技術論に走ったり、細かな指示を出したりはしなかったのである。
稲盛 私は航空運送事業について何の知識もありませんでした。もし中途半端に知っていたら、おそらく「この手を打ちなさい、あの手を打ちなさい」と、いろいろな「部分」で指示したと思うのですが、何も知らなかったものですから、「根本」から考えていこうと思わざるを得なかったのです。
なんとしても現場の組織を活性化しなくてはいけない。そのために私がもともと京セラやKDDIの経営で実行してきた考え方、つまり全社員が持つべき判断基準や経営哲学をまず全社員に伝えて、それによってみんなの意識を変えてもらう。意識が変わることが、組織の活性化につながっていくだろうと思ったので、まずそのようなフィロソフィを伝えていくということをやったわけです。
各現場の組織が活性化するためにフィロソフィを伝えていくわけですが、その前段として冒頭にあるべきもの、それが経営理念になります。
そこで当時の大西賢社長(現会長)以下幹部の人たちに、私のもともとのフィロソフィや経営理念を記した京セラの社内テキストを渡して、JALに合ったフィロソフィをつくってみたらどうだと言いました。それを受けて、みんなで真剣に勉強会をやってくれました。そうして企業理念としては『全社員の物心両面の幸福』を冒頭に持ってきてくれて、フィロソフィについても、京セラが持っていたフィロソフィをもとに、JALの現状に合った項目もつけ加えてつくり上げてくれました。