大統領は正気か?国民に走った衝撃と戸惑い、混乱

 筆者がこの一報を知ったのは友人とのチャットであった。友人が「大統領が戒厳令を発令させたらしい」と言うので、驚いてNaverを見ると速報が流れていた。

 夫にこのニュース速報を伝えると、驚いた表情で「本当か?」「フェイクじゃないのか?」と何度も聞き返していたが、それが事実だと分かると絶句していた。夫は韓国人にしては政治的な話題にそこまで熱くなるタイプではなく、選挙では中道という考えを示しているが、今回の尹大統領の突然の発表には、さすがにショックや怒りを隠せず「何を考えているんだ?信じられない」と繰り返していた。

 このように、国民の多くが、突然舞い込んできた速報に大きな衝撃を受けていたのは言うまでもない。Naverのコメントでも「2024年に起こっていることなのか?」「尹錫悦は正気なのか?」「ついにタガが外れたのか?」と尹氏の今回の行動を非難するもの、怒りが感じられるものがほとんどだった。それと同時に、青天の霹靂ともいえるこの事態をのみ込めず「何が起こっているのか?」「事のいきさつを知りたい」など、混乱している様子もうかがえた。

 冒頭で触れたように、韓国で過去に戒厳令があったのは40年以上前のことであり、実際にその時のことを記憶している者は50代後半以上である。国民の多くにとっては「歴史上の出来事」「学校の授業で聞いたことがある」といった認識で、「まさか現代にこのようなことが起こるとは信じられない」という反応も多かった。SNSではZ世代を中心に「怖い」「これから何が起こるのか?」といった声が多く上がっていたのも当然であろう。

「兵役期間が延長される」というフェイクニュースも

 筆者がもう一点、今回の戒厳令で気になったのは軍部の動向であった。戒厳令を受けて、軍部は特殊部隊を国会に配置、ソウル市内では戦車も出動するなど、一時物々しい雰囲気となったのだ。

 筆者には現在、兵役に就いている長男がいる。また、同世代の友人、知人の子どもが兵役に行っているケースもやはり多い。仮に戒厳令が長期化すれば、兵士は治安維持や、政治集会の監視といった任務に配置される可能性もあり、兵務内容や期間にも影響が出るかもしれないという心配が頭をよぎった。ネット上に「戒厳令の長期化や情勢不安によっては兵役期間が延長される」という記事が上がり一時騒然となったが、これはフェイクニュースであることが分かった。

 長男の所属部隊からは、戒厳令解除後に、上官から兵士の保護者宛てに「大きな混乱などはないので心配しないでほしい」とメールが来たのでひとまず安心したものの、長年韓国に住んでいる中で、こんな韓国政治史の歴史的な出来事にまさか遭遇するとは想像もしていなかった。