韓国「戒厳令の予兆」を野党・共に民主党は察知、警告していた…尹政権は終焉へPhoto by Hyunwoo Joo

12月3日夜、韓国の尹錫悦大統領が突如「非常戒厳」を宣布した。宣布は1987年の民主化以降、初めて。集会の禁止や報道統制を含む布告令が出され、一時、戒厳軍が国会敷地内に侵入し一触即発の状態に陥った。しかし宣布から2時間半ほどで国会が戒厳解除要求決議を全会一致で可決。民主主義の崩壊は免れた。韓国の政府やメディア関係者は「青天の霹靂(へきれき)だ」と一様に驚く中、最大野党「共に民主党」は予兆を察知し、警告を発していた。その中身とは。(ダイヤモンド編集部 猪股修平)

尹大統領暴挙に市民は阿鼻叫喚
与党もメディアも事前察知せず

「国会に軍人が入った。狂っている」「尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は自殺スイッチを押した。政権はもう終わりだ」

 戒厳宣布直後、韓国のメディア関係者から筆者に届いたメッセージは阿鼻(あび)叫喚だった。

 韓国では1987年に民主化宣言が出るまで、長きにわたり軍事独裁政権が続いた。前回の戒厳令は44年前の1980年5月。韓国軍が南西部の光州市で住民らを虐殺した「光州事件」発生時以来だった。

 当時を想起した市民たちは、国会前に集まり、尹大統領の暴挙に反対の声を上げた。戒厳軍はその後国会から撤収したが、民主主義を揺るがす事態が発生し、韓国国内での動揺はしばらく続くとみられる。

 複数の韓国メディアによると、3日午後10時23分に韓国大統領府で尹大統領が緊急記者会見を開くまで、政府高官もメディア関係者も全く戒厳を予期していなかったという。

 ある韓国メディアの記者は「与党『国民の力』指導部も知らなかった。情報が錯綜(さくそう)しているが、尹大統領と国防部長官、その周辺の何人かだけで企てたというシナリオが濃厚だ」と明かす。

 尹大統領周辺にとっても寝耳に水の戒厳令だったようだが、実は、野党「共に民主党」の関係者は、戒厳宣布の危険性を事前に察知し、警告を発していた。

 次ページでは、軍の人事から戒厳の予兆をつかんでいた国会議員の発言や、「戒厳はあり得ない」とそれを否定し、尹大統領の暴走を招いた「ある出来事」を明らかにする。