静かに広がっていた尹政権への批判と嫌悪
突然の韓国の政変に、日本の政府やマスコミも驚きを隠せない様子だったが、そもそもなぜこのような事態が起こったのか。
韓国ではここのところ、尹氏に対する不満や非難の声が日に日に強まりつつあった。街中では革新派の政党や市民団体によって、尹政権の退陣を求めたり、尹氏の妻・金建希(キム・ゴンヒ)氏を批判したりする横断幕が各所に掲げられていた。繁華街では反政府デモが増加するなど、緊張感が高まっていた。
野党が特に糾弾していたのは、尹氏自身の政権運営や妻の金氏をめぐる疑惑である、4月の総選挙での与党の惨敗はまさに政権交代への足がかりと言え、さらに尹氏に追い込みをかける機会を狙っていた野党側にとっては、今回の騒ぎは“棚からぼた餅”だったに違いない。
現に、この原稿を書いている12月4日午後の時点で、「共に民主党」を始めとする野党6党が尹氏に対する弾劾訴追案を国会に提出。尹氏退陣を求める勢いは止まりそうにない。
破綻していた側近・韓東勲との関係と、
分断状態の与党「国民の力」
しかし、与野党の権力抗争というだけではない側面も浮かびあがってきている。
その注目すべき点が、与党「国民の力」の内部が分裂しているのではないかということだ。中でも注目されているのは、尹氏の側近で、「国民の力」の党首である韓東勲(ハン・ドンフン)氏の動向である。
かつて二人は検察時代の先輩と後輩という間柄であり、政権では最側近として法務部長官に就任していた(現在は辞任)。共に検事出身のエリートであり、蜜月関係を築いていた。一時期は「韓氏は尹氏の有力な後継で、次期大統領候補」と評され、期待の声も高まっていたが、二人の関係に徐々にズレが生じ、特に4月の総選挙における選挙の戦略などをめぐって完全に亀裂が深まり、袂を分かつこととなった。
現在の韓氏は、かつての蜜月ぶりが信じられないほど、尹氏と妻・金氏への非難を強めている。また11月には、「国民の力」の党員専用の掲示板に、韓氏や家族の名前で尹氏夫妻を非難し、誹謗中傷する書き込みが大量にアップされるという怪事件が起き、波紋が広がった。「国民の力」は「外部による改ざんが疑われる」と歯切れの悪いコメントをするにとどまり、韓氏自身もこの件に関しては沈黙しているため、真相は闇の中である。