変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)でIGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていくこれからの時代。組織に依存するのではなく、私たち一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルになることが求められる。本連載の特別編として書下ろしの記事をお届けする。

「もう必要とされない…」と悩む人が知らない、10年後も活躍するための秘訣Photo: Adobe Stock

過去の成功に固執する人が淘汰される理由

「過去に大きな成功を収めた経験がある」

 一見素晴らしいこの事実が、実は危険信号であることにみなさんはお気づきでしょうか?

 人は一度成功体験を得ると、その方法に固執しがちです。しかし、これが新しい変化を受け入れる妨げになり、常に変化するビジネス環境の中では、結果的に時代に取り残される要因ともなります。

 例えば、かつて日本ではガラケーが主流でしたが、スマートフォンの登場で市場が一変しました。ガラケーの細かな改善に注力していた企業は軒並み淘汰されました。一方、スマートフォンに対応した製品開発を進めた企業だけが生き残り、新たな市場で地位を築きました。

 このように、現状を改善するだけでは、時代の波に対応しきれないのです。

未来を創造する「引き算思考」の実践法

 VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代においては、単なる「現状の最適化」ではなく、未来を創造する力が必要です。そして、生き残るための未来を見据えた変革には、「引き算思考」が欠かせません

 今あるものに新しい機能を足し、今の延長線上で今ある資源をベースに実現できることを発想するのが「足し算思考」であるのに対し、「引き算思考」とは、目の前にあるものから不要なものをそぎ落とし、ゼロベースで再構築する発想法です。

 引き算思考の体得には、自分の生活や仕事を題材にすると効果的です。まずは身近なテーマで練習し、徐々に思考を会社全体や社会全体へと広げていきましょう。例えば、自身がかかわる業務の中で無駄な会議や過剰な報告書作成など、プロセス内の不要な要素を見直すことが、引き算思考習得への第一歩です。

10年後を創造する習慣が未来を拓く

 短期的な目標に追われる日々の中で、10年後の未来を考えることは難しいと感じるかもしれません。しかし、今あるものの延長線上で考えるだけでは、5年後すら見通せないことがほとんどです。未来を創造するためには、長期的な視点を持ち、現在の常識を疑うことが大切です。

 例えば、タクシー業界におけるウーバーの登場や、自動運転技術の進化は、従来の移動手段の常識を根本から覆しました。これらの変化を予測するには、既存の構造を疑い、ゼロベースで思考する力が必要です。

 このように、目の前の業務を改善するだけでなく、長期的な視点で引き算思考を実践することで、時代の変化に柔軟に対応できる個人や企業へと成長することが可能です。未来を構想する力を養うため、ぜひ引き算思考を日常の中で取り入れてみてください。

 アジャイル仕事術では、未来を創造する思考法をはじめ、働き方をバージョンアップする方法を多数紹介しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)が初の単著。