生き物たちは、驚くほど人間に似ている。ネズミは水に濡れた仲間を助けるために出かけるし、ゾウは亡くなった家族の死を悼む。どこか私たちの姿をみているようだ。
そんな動物たちの知られざる「社会的な」行動や、自然の偉大な驚異の数々を紹介するのが、ウォール・ストリート・ジャーナル、ガーディアンなど各紙で絶賛されている世界的話題作『動物のひみつ』(アシュリー・ウォード著、夏目大訳)だ。本書は、翻訳出版に従事する編集者や翻訳家、エージェントたち約200名が一堂に会し、その年に出版されたノンフィクション翻訳本の中から、投票によって「今年の3冊」を選出する恒例行事でも、見事1位に輝いた。出版業界のいわば“プロ”たちがこぞって、「今年の1位」として選んだのだ。今回は、芸能界随一の動物好きとして知られる、お笑いコンビ・ココリコの田中直樹さんに、本書の魅力についてインタビューした。(取材・構成/ダイヤモンド社コンテンツビジネス部)
ザトウクジラのオスに睨まれた?
――本書では、クジラの生態がいくつも紹介されています。田中さんはテレビのロケなどでクジラを見たことはありますか?
田中直樹(以下、田中) マッコウクジラとザトウクジラは見たことがあります。
――どちらも本書に載っているクジラですが、実際に目撃したときに印象深かった思い出はありますか?
田中 ザトウクジラの方は、遭遇したときのインパクトが大きかったので、かなり鮮明に覚えています。
ジンベエザメを探すロケでハワイに行ったとき、シュノーケリング中にザトウクジラのメスとその子どもが突然現れて、その少し後ろをオスがついていくように泳いできたんです。
ハワイの海は透明度が高いのではっきり見えたんですけど、そのオスが目の前を通ったとき、ギロッと僕を見て「お前、俺の女に手を出すなよ」的な視線を送ってきたんです。その瞬間、目が合った感じがして、強烈な威圧感を覚えました。
もちろん、僕を本気で脅したつもりはなかったと思います。僕はザトウクジラのメスに手を出すような人間ではないですからね。
ただ、そのとき同行していたガイドさんは、そのオスは親子をエスコートしながら、次の交尾の機会を狙っていたのだろうと言っていました。「自分の子孫を残す」というのは、生き物の最重要ミッションの1つなので、人間を警戒していた可能性は大いにあると思います。
――巨大なザトウクジラと視線が合ったら、確かに怖そうですね。
田中 クジラを見るためにシュノーケリングしたわけではなかったので、その意外性もあったとは思いますが、リアルに「睨まれた」感じというか、「敵」としてみられた気がしたんですよね。あの瞬間は忘れられません。
子どもが親の頭をなでて機嫌を取るイルカ
――ほかに、印象に残った動物はいますか?
1992年に同級生の遠藤章造とお笑いコンビ「ココリコ」を結成。以降、テレビやラジオなど多くの番組に出演。役者としての顔も持ち、映画やドラマなど幅広く活動する。また芸能界随一の「海洋生物好き」として知られ、特にサメ好きを公言している。
田中 本書を読んで、イルカやシャチの知能の高さには改めて驚かされました。たとえば、イルカは鏡に映った姿が自分自身であることを認識できるという話がありました。
僕がかつて実験で見たイルカも、1頭は鏡に映る自分の姿をずっと気にしながら泳いでいて、もう1頭は自分を認識した後は鏡を気にせず泳いでいました。人間でも、鏡の前からなかなかどかずに容姿チェックに時間をかける人と、そうでない人がいますよね。それと似ているような気がします。
イルカは哺乳類の中でも、体の重さに対する脳の重さの比率がヒトに近いです。やはりそれだけ賢いんだと思います。
イルカでいうと、集団から外れた行動をとったことに対してお仕置きをされた子どもが、母親の頭を胸びれでなでて、機嫌を取ろうとする話も興味深かったです。人間ではあまり見られない構図なので、妙に面白かったです。
クジラすら襲って食べるシャチの「優しい一面」
田中 本書のメインメッセージである「集団で生きることの重要性」という話に引きつけていうと、シャチが集団内で、1匹の獲物を解体して回し食べをするというエピソードに感銘を受けました。
――クジラを襲って食べるなど、シャチには「ハンター」のイメージがありますが、この行動はそのイメージと正反対ですね。
田中 しかも、子どもたちに対してだけでなく、ハンディキャップのある個体に対しても、食べ物を分け与えてサポートしているんですよね。
捕まえた魚にみんなが食いついて取り合うケースは、多々あると思います。でも、意図的に解体して分け合うというのは、知能が高いシャチならではの行動ですし、「ここまでやるのか」と感心すらしました。
動物の社会性は、知れば知るほど面白いですね。
(本原稿は、アシュリー・ウォード著『動物のひみつ』〈夏目大訳〉に関連した書き下ろし記事です)