彼女の語っていた内容は、ほとんどこの物語のとおりでした。この物語はフィクションだったので、実在しない人物も多数登場していました。
エバンスの前世の記憶の中には、この作者の創作した実在しない人物がそのままの形で登場していました。想像力も「莫大な量の資料や論文」を読み込まないと得られない知識も、彼女ではなくこの小説の作者のものだったのです。
また、自分の前世は、ブランチ・ボイニングスという名前であり、14世紀に生きていたのだといいはじめた女性のケースもあります。この事例も、彼女の話した内容は詳細をきわめたので、当初は信頼性は高いと思われていました。
ところが、英国心霊現象研究協会がこの事例を調べたところ、エミリー・サラ・ホルトという作家が1892年に出版したCountess Maud(モード伯爵夫人)という小説と彼女の語った内容がほぼ一致していることがわかりました。
このように、前世の記憶を思い出したという事例は、いままでいくつか話題になってきましたが、本格的な調査が行われると結局、その話は眉唾だったということがわかることがほとんどです。とくに英国心霊現象研究協会はこのような活動に熱心で、多くの生まれ変わり事例が信用できないものであることを明らかにしてきました。
フランス語を突然話したアメリカ人
「真性異言」が本物の例はほぼない
前世の記憶について調べてみると、「真性異言」という現象につきあたります。これは、もともと英語しか話せない人がフランス人の前世記憶を思い出し、「流ちょうに」フランス語を操ったといった事例です。話せないはずの言語を流ちょうに操ることができるという現象は、前世記憶以外ではなかなか説明できないように思われます。
最近では、ベンが報告している次のような例があります。彼が催眠療法を行っていた26歳のアメリカ人の患者が、自分は、1914年8月に、ベルギー上空でドイツ機の機銃掃射にあい、胸を撃たれて戦死したフランス空軍のパイロットであったといい出したのです。彼の証言はリアルで信頼できるように思われました。また、彼は知らないはずのフランス語まで口走ったのです。