推しの結婚に際して、ガチ恋勢ほど落胆と、その落胆が不満や怒りに変化していく感情の絶対値は大きいはずであり、「裏切られた」と感じるファン心理はわからなくはない。
 
 しかし、そもそも「それは本当に裏切りなのか」という疑問もある。いかにウブなキャラを発信していようとも成人なら交際相手がいてもまったくおかしくなく、推しが見目麗しいとなれば周りに放って置かれにくいからなおさらである。ファンが勝手に期待して勝手に傷ついて、それを「裏切られた」と言うのはあまりにも自己本位ではないか。

 いや、その推しがファンのガチ恋を煽るような活動をしていなかったら「裏切り」という言葉は使われなかったはずだ――。といった議論が、今檜山さんの結婚を巡って交わされている最中である。

 そうした中で筆者が個人的に確認したのが「ファンの成熟」であって、これが恋愛感情を利用したビジネスが変わる兆候だと見ている。

SNSが後押ししたファンの気づき
「恋愛ビジネス」に変化の兆し

 まず、SNSが登場してから、著名人の交際や結婚の報道はしょっちゅう炎上してきた。多数の悲しむファンが声を上げたからだったが、それが炎上一辺倒でなく、やがて祝福の声も多く確認されるようになってきたのは最近である。これは、SNSを通して世間が著名人の結婚について、誰かと言葉を交わしながら考える機会を度々持ってきたからではないかと推測している。

「そりゃ結婚できる年齢なら結婚くらいするだろう」という、第三者には当たり前だがファンには受け入れがたい真理を、ファンもついに自分のものとし始めた感がある。

 古来より、恋愛感情は換金可能なビジネスとして常に利用されてきた。何しろ恋愛をしていると人は冷静ではなくなるので、財布の紐がだるんだるんに緩む。江戸時代にあった遊郭は現代では形を変え、クラブやキャバクラ、メイド喫茶、パパ活などに細分化されている。どれもガチ恋が主軸ではないが、「一部の利用客がガチ恋」をしている「ガチ恋要素」を含んでいる。