僕はずっと、自分のことを「つまらない人間」やと思っていました――お笑いコンビ「NON STYLE」のボケ担当・石田明さんはそう話す。芸人歴20年以上、数々の賞レースのタイトルを獲得した今でも、その思いが消えることないという石田さんは、漫才に対する分析が鋭すぎて「石田教授」と呼ばれるほど。本記事では、そんな石田さんが、関東と関西のお笑いの違い、吉本興業論、そしてここ数年のM-1グランプリ決勝を賑わせた若手はどこが面白いのか?について解説する。(お笑い芸人 NONSTYLE 石田明)
関東か、関西か――「言葉」と「ネタ作り」
インタビューなどでたまに「関西と関東の漫才師に違いはありますか?」と聞かれます。単純に一括(ひとくく)りはできないものの、さまざまな点で異なることは事実でしょう。
まず、当然ですが「言葉」が違います。
以前、ナイツの塙くんが「関西弁だと『なんでやねん!』で事足りてしまう。関東にはそういう万能の言い回しがないから、うらやましい」というようなことを言っていました。たしかに笑いを取るうえで、関西弁は有利といえば有利やと思います。
「なんでだよ!」だと否定のニュアンスが強くなりすぎてしまうけど、「なんでやねん!」だと甘噛みというか、じゃれ合いに持っていきやすい。このひとことのみならず、関西弁のイントネーション自体が、笑いをとりやすくできていると思います。
ただ、関東勢が分厚くなるにしたがって、お客さんも関東の言葉で漫才を聞くことに慣れてきています。関東の漫才師たちもうまく「面白い雰囲気」を出せるようになっているので、今となっては、言葉面での違いは、だいぶ小さくなっているんやないかと思います。
他に関西勢と関東勢とで違うと思うのは、「力点の置きどころ」です。
関東勢は、どちらかというと「手段」を考えることに力点を置いている。傾向と対策を練り、「どうしたらお客さんを笑わせられるか」という合理的思考に長(た)けている人が多いように見えます。
それに対して関西勢は「笑ってもらえるネタを作ること」よりも、「面白い漫才師になること」にこだわる職人気質の漫才師が多いと思います。専門用語でいうと「人(ニン:芸人の持っている人間性やキャラクター)を見せようとする」わけです。
「卵かけご飯」にたとえると、関東勢は「大根おろしとラー油入り卵かけご飯」というように趣向を凝らしたもので勝負しているようなものです。
一方、関西勢は、「白米、卵、醤油」という王道の卵かけご飯を「エサにこだわった平飼い鶏の新鮮卵と、ピカピカの米、そのためだけにつくられた醤油」みたいにして、どれだけおいしく出せるかにかけているという感じです。