メドベージェフは当たり障りがなく、一貫性もない人物のように見えた。「ピティフル(哀れ)」だの「ジモン」だの[訳注:彼の名「ドミートリー」は、マフィアの間でくだけて「ジモン」と省略される。ゆえにこのニックネームには、悪徳のイメージが伴う]あだ名がつけられていた。以前、報道官がインタビューで真剣に訴えたことがあった。メドベージェフのことをネットで「ジモン」と呼ぶな、彼はとても真面目で堅実な人物なのだからと。

 そういうわけで、私たちは独自の調査プロジェクトを「彼を“ジモン”と呼ぶな」と命名した。その調査で明らかになったのは、メドベージェフはただの愚か者ではなく、とことん腐り切った悪徳政治家だったことだ。慈善団体のネットワークを駆使して、オリガルヒに金をせびり、豪華な住宅を何軒も自分のものにしていた。

 私たちはひそかにすべての邸宅に足を運び、秘密裏にドローンを飛ばして、メドベージェフの暮らしぶりをつまびらかにした。歴史の街プリョスのボルガ川沿いに巨大な邸宅を所有していることもわかった。この敷地にある大きな池の真ん中には、小さなアヒル小屋があり、視聴者の間で話題になっていた。なぜこんな細かい点が注目されたのか、まったくわからないが、それ以降、小さなアヒルはこの調査と反汚職運動の象徴になった。

慈善団体を隠れ蓑に
大量のスニーカーを収集

 もう一つの象徴がスニーカーだ。メドベージェフが作り上げた汚職のからくりを見極めることができたのは、スニーカーのおかげだ。2014年、あるハッカーグループがメドベージェフ首相のメール受信箱をハッキングし、内容を公表した。私たちがそのメールを詳細に分析したところ、メドベージェフはスニーカー好きであると判明した。発注はいつも12足ずつで、荷物の送付先には、複数の慈善団体を運営する責任者の住所が指定されていた。

 このスニーカーの発注が、こうした慈善団体とメドベージェフを結びつける最初の突破口になったのだ。この発見から芋づる式に全容が明らかになった。コーカサス山脈のリゾート地クラスナヤ・ポリャナにある山荘、ウクライナと国境を挟んだクルスクの邸宅、イタリアのトスカーナ地方や黒海に面したアナパのワイン用ブドウ園もその一部である。