プーチン独裁体制を揺さぶった「ロシア反体制活動家」が毒殺未遂事件の前夜にバーで感じた“異変”

ロシア反体制活動家であるアレクセイ・ナワリヌイは2024年2月16日、北極圏にある刑務所で死亡した。ナワリヌイ氏はロシアに自由をもたらす活動を続け、プーチン率いる与党「統一ロシア」による独裁体制を崩そうと奔走。しかし、その活動がプーチンから目をつけられていた。2020年に飛行機内で毒殺未遂事件が起きる前夜までの出来事を辿る。※本稿は、アレクセイ・ナワリヌイ著、斎藤栄一郎訳、星薫子訳『PATRIOT プーチンを追い詰めた男 最後の手記』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。

プーチンに打撃を与える
そのために選挙を利用

 ロシアでは、選挙をしたからといって権力は変わらない。これは2011年のインタビューで私が語った言葉だ。とはいえ、選挙の準備過程で、人々の注目が政治に集まることは確かなのだから、その状況をうまく利用するに限る。さらに言えば、そのようなとき、当局はたいてい脆くなる。まさに2011年がそうだった。ドゥーマ(下院)選挙で統一ロシアは勝利を収めたとはいえ、投票操作が明るみに出た直後から、各地で反政府運動が広がった。

 その年、私は、統一ロシア以外の政党ならどの党の候補者でもいいので投票しようと有権者に呼びかけた。それから7年後の2018年には、大統領選の立候補を表明したが阻まれた[訳注:2017年、キーロフ林業事件で有罪判決を受けたため。ロシアでは重罪犯は一定期間、公職に立候補できない]。そこで選挙ボイコットを呼びかけたところ、私の主張に一貫性がないと考える人たちが批判の声をあげていた。だが、実際のところ、私の主張はしっかり筋が通っていた。できるだけ大きなダメージをクレムリンに与えるためには、いつでも選挙を利用しなければならないのだ。

プーチンの与党を崩すため
嫌いな野党でも投票する戦略

 2018年の暮れ、私たちは新たな戦略を打ち出した。その1つが戦術的投票[訳注:ある候補者を落とすために他の候補者に投票する行動]である。それまで実践したことがなかったが、この方法なら、統一ロシアによる権力の独占状態を壊せるのではないかと考えたのだ。どの選挙でも基本的には、プーチン率いる与党の候補者が25%から30%の票を獲得し、残りは議会内野党の代表者に分散するというのがいつものパターンだった。こうした候補者がお互い手を組むことは決してないとクレムリンは踏んでいた。

 選挙では、各党の候補が独自色を前面に押し出して競い、結果的に選挙区が割れることになる。誰でも「うまみのある選挙区」を好む。そのため都市部の野党候補者は、多くの場合、票を取り合うことになり、それが結果として統一ロシア候補者に有利な結果となる。だとしたら、こうは考えられないだろうか。候補者同士が意見を合わせられないのなら、有権者が意見を合わせればいいではないか。