ドナルド・トランプ氏が大統領への再登板を決めたため、国際情勢は早くも就任後を見据えて動き始めた。そして、大きな話題となっている北朝鮮兵のロシアへの派遣――。作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が読み解く。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)
ドイツとロシア、2年ぶりの電話協議
ドナルド・トランプ氏が大統領への再登板を決めたため、米国がウクライナ戦争から早々に手を引く可能性が出てきました。実際にホワイトハウスへ戻るのは来年1月20日ですが、国際情勢は早くも就任後を見据えて動き始めています。
ショルツ氏は電話協議でロシアのウクライナ侵攻を非難し、プーチン氏に戦争をやめるように求めた。独メディアによると、協議は約1時間に及んだ。
独政府関係者によると、ショルツ氏はロシアへの北朝鮮兵の派遣についても言及し、「紛争の深刻な激化と拡大を伴う」と指摘した。ウクライナの民間施設に対するロシアの空爆についても非難した〉(11月16日「朝日新聞」朝刊)
ドイツはこれまで、首脳レベルでのロシアとの接触を差し控えてきました。ショルツ首相はなぜ2年ぶりに接触したのか。トランプ次期大統領がウクライナ支援を打ち切った場合、このままのかたくなな態度ではドイツの国益を毀損すると考えるに至ったのでしょう。
かつてドイツは、海底パイプライン「ノルドストリーム1」などを通じてロシアから安価な天然ガスを大量に輸入していました。ロシアによるウクライナへの侵攻が始まってから調達を減らした代わりに、米国やカタールからLNG(液化天然ガス)を輸入しています。しかしLNGは輸送や保管にコストがかかるため電気料金が高騰し、国民の生活を圧迫するだけでなく主力産業の製造業が業績不振に陥っています。
この電話協議を契機に、ドイツとロシアの間でロシア・ウクライナ戦争の着地点を探る動きが始まる、と筆者はみています。
この協議でも触れられていますが、約1万1000人とされる北朝鮮兵のロシアへの派遣が、大きな話題になっています。報道によると、北朝鮮兵はロシアの軍服に着替え、ロシアの兵器を装備しているとのことです。しかし、その意味を解説する記事を見掛けません。兵士が他国の軍服を着てその指揮命令下に入れば、正規軍の派兵ではなく、傭兵としての扱いになります。
興味深いのは、この北朝鮮の傭兵軍団が、ウクライナの戦闘地域ではなく、ロシア領のクルスク州へ真っ先に送られたことです。これには理由があります。