ハッキングされた「ロシア元大統領のメール」が暴いた政治腐敗が“風変わり”だったPATRIOT プーチンを追い詰めた男 最後の手記』 アレクセイ・ナワリヌイ (著), 斎藤 栄一郎 (翻訳), 星 薫子 (翻訳) 講談社

 3月26日、ロシア全土で抗議デモが行われ、私の仲間は事務所からその様子をストリーミングで配信していた。各地から写真や動画が送られてきて、それをライブで公開したのだ。視聴者数が15万人を記録し、配信が最高潮に達したとき、事務所が突然停電に見舞われた。次の瞬間、イヌを連れた警察官が事務所に乱入した。そこにいたスタッフは逮捕され、機材もすべて押収された。PC、カメラ、照明、マイク、何もかもだ。当然のことながら、そのすべてが戻ってこなかった。すでに話したように、私たちを潰すためにクレムリンが仕組んだ策略だ。配信に携わっていたスタッフの13人が勾留された。

100以上の都市で抗議デモ
そのほとんどが初参加の若者

 私たちの調査でメドベージェフの政治生命は絶たれた。反対運動全体のターニングポイントになったのがその調査だったのだ。映画『彼を“ジモン”と呼ぶな』が公開されてから10日後、私は聴衆に訴えた。表に出て、政府の回答を求めようじゃないかと。多くの人はそんなことができるのかと感じていた。ロシア全土で大規模デモを行うのは不可能だ、そうした運動ができるとしても、せいぜいモスクワとサンクトペテルブルクくらいだろうと見られていたのだ。

 しかし3月26日の抗議デモは100以上の都市で行われた。この事実が如実に物語っているのは、さまざまな政治信条を持つ市民を一つにまとめることができるとすれば、それは汚職に対する闘いしかないということだ。今回の抗議デモには私たちの各地本部が組織したものもあるが、現地のボランティアが主導したものもある。参加者の80%は、それまでデモに足を運んだ経験のない若者だった。

 私たちは、確かな実績を残してきたとの自負がある。そのおかげで、新しい世代の人々が政治に関心を持つようになったのだ。この世代は、自発性を発揮し、しっかり計画性をもって行動する能力があり、この国の現状に心底不満を抱え、自身の信条に基づきデモに参加する覚悟がある。