2025年1月20日にいよいよドナルド・トランプ氏が米国大統領に再登板する。閣僚人事で見えてくること、「24時間以内に終わらせる」と公言していたウクライナ戦争、混迷のガザ紛争の行方は?池上彰氏と佐藤優氏が対談した。(ジャーナリスト 池上彰、作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)
首相官邸は7月から
「トランプ氏再選」でブレなかった
池上 東西冷戦が終わった後、各国の関係が急激に複雑に絡まってしまって、どう解いたらいいのか難しい時代になりました。
佐藤 米国とロシアは仲が悪い。米国とイスラエルは運命共同体。にもかかわらず、ロシアとイスラエルは仲がいい。
池上 米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が当選を決めたときも、日本国内では「まさか」という声が結構ありましたね。
佐藤 首相官邸の中枢である内閣情報調査室と国家安全保障局は、7月からトランプ氏再選で全くブレていませんでしたよ。なぜそれが分かるかといえば、カマラ・ハリス氏に当選の可能性があるなら「ハリス詣で」を始めて保険をかけないといけませんが、その動きが全くなかったからです。
ハリス氏なら、トランプ氏に保険をかけてもあまり気にしません。政治の世界だから当然だという理解があるからです。しかしトランプ氏は、相手に保険をかけようものなら、ものすごく怒ったでしょう。そのことを考慮しても首相官邸はハリス氏にほとんど保険をかけていませんでした。
日本のジャーナリストや国際政治専門家は、ほぼ9割がハリス氏優勢を唱えていましたね。
池上 「トランプさんの返り咲きじゃたまらない。ハリスさんのほうがいいよね」という願望が、そのまま記事になっていたんじゃないかと思います。
トランプ氏支持者が
メディアのインタビューを避ける理由
佐藤 そんな中で、池上さんは最後まで「トランプ氏当選の可能性ありで準備したほうがいい」と言っていました。ハリス旋風に巻き込まれなかったのは、なぜですか。
池上 私は米国へ2度行って、合わせて3週間ほど取材しました。街頭インタビューすると、すぐに応じてくれる人は民主党支持でありハリス氏支持なんです。一方、テレビカメラを向けると嫌そうな顔をしたり、手で制して通り過ぎたりする人たちが一定程度いたんですよ。
2016年の大統領選の時は「隠れトランプ」と呼ばれる人たちがいました。「トランプさんを支持します」と言うと「おかしいんじゃないか」と言われかねない雰囲気だから、口をつぐんでいた人たちです。トランプ氏が大統領になったので、支持は表明しやすくなりました。
ところがトランプ氏は、既存のメディアをフェイクニュースだと批判していますから、トランプ氏の支持者は、われわれがテレビカメラを持って行くと「ああ、フェイクニュースが来た。こいつらに付き合う必要はない」とインタビューを避ける動きが広がったんじゃないかと思うんです。
佐藤 日本でいえば、日本共産党と公明党の支持者の感じですね。