国内消費や不動産取引の低迷で経済的に苦しい中国。その中でのドナルド・トランプ次期米大統領の誕生に、習近平国家主席は警戒感を強めている。特集『総予測2025』の本稿では、今後の中国政治の動向について、興梠一郎・神田外語大学教授に話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 藤田章夫)
トランプ大統領の就任を見据えて
中国が米国の同盟国と関係強化へ
――2025年1月にドナルド・トランプ氏が米大統領に就任しますが、中国側の受け止めはいかがでしょうか。
中国はプレッシャーに感じていますね。それが、行動に表れています。日本や韓国など、米国の同盟国と関係を強化しようとしているのです。要は、擦り寄ってきているんですよ。分かりやすい例では、これまで先延ばしにしていた日本人の短期ビザ免除措置を再開し、滞在期間も15日から30日に延長すると24年11月に発表しました。
また、8月に中国軍機が長崎県の上空を領空侵犯し、すぐさま外務省と防衛省が抗議しました。これも11月になって、気流の妨害に遭い、という言い訳付きでしたが領空侵犯を認めたのです。
これまで中国の外交スタイルは攻撃的な「戦狼外交」でしたが、「ほほ笑み外交」に変わりました。APEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議で、石破茂首相と対談した習近平国家主席は、常にほほ笑んでいましたよね。
――その理由は何でしょうか。
中国の態度を見ていれば分かりますが、困っているし、怖がっているように見えます。なぜかというと、とにかく中国の株式市場や不動産市場が低迷しており、経済環境が悪いからです。これまで不動産でもうけてきた地方政府も、過剰債務に苦しんでいます。
となれば、国内消費と輸出しかありませんが、消費については経済の低迷で伸び悩んでいます。輸出の方はというと、トランプ氏が「60%の関税をかける」と言っているわけです。最後の命綱が切れようとしているのです。
しかも今回、2度目の登板となるトランプ氏には怖いものがありませんし、米国議会も上院下院共に共和党が制しました。
改革開放路線から一転、派閥の粛清や人工島の建設、一帯一路の提唱に加え、憲法を改正して国家主席の任期を撤廃するなど強行路線を貫いてきた習近平国家主席。米国を刺激し続けてきたが、国内経済が低迷する中、トランプ大統領の誕生により窮地に追い込まれている。その習氏が恐れる事態について、次ページで詳述する。