カマラ・ハリス副大統領と与党・民主党に圧勝したトランプ前大統領。なぜ、ハリス陣営は大敗を喫したのか。そして、大勝をおさめたトランプ氏は自身の目的を達成するために、手足となる新閣僚候補を次々に発表している。特集『総予測2025』の本稿では、トランプ氏の狙いを明らかにする。(東京大学東洋文化研究所准教授 佐橋 亮)
ハリス副大統領と与党・民主党が敗北
トランプ前大統領が圧勝したわけ
今回の米国大統領選挙は、ドナルド・トランプ前大統領の圧勝となった。だが、結果を見ると、トランプ氏が前回の大統領選で負けた時と比べ、さほど得票数を増やしたわけではない。つまり、カマラ・ハリス副大統領、そして与党・民主党が“負けた”ということだ。
その理由は、ハリス氏や民主党が都市部の価値観にとらわれていたためだ。米国民の関心事は、インフレや住宅価格の高騰、治安の悪化、そして何より不法移民の流入にある。とりわけ、インフレと不法移民によって自らの生活が脅かされていると感じている米国民が多い。
故にトランプ氏は、経済と不法移民対策を「一丁目一番地」に据えていたわけだが、ハリス氏は民主主義を守る、若い自分にバトンを渡してほしいと抽象的な言葉に終始していた。
そもそもハリス氏が擁立されたのは、2024年6月末のトランプ氏とのテレビ討論会でバイデン大統領が全く精彩を欠き、撤退を余儀なくされたことがきっかけだ。しかも予備選挙を行わず、無理やりハリス氏を後継候補にしたことで、彼女自身が鍛えられる場もなく、立ち位置が不明瞭なまま選挙戦に突入してしまった。
そのハリス氏の勢いが最高潮に達したのは、8月の民主党全国党大会だった。だが、これは周りが無理やりハリス氏を押し上げ、雰囲気をつくり上げたにすぎない。
忘れてならないのは、ハリス氏は前回の大統領選の予備選で早々に負けて、撤退した人物だということだ。そもそもこの4年間、ハリス氏の副大統領としてのパフォーマンスの低さは有名だった。
そして、ハリス氏は最後まで変われなかった。選挙最終盤でも大学の学生ローン免除の問題をことさらに取り上げていた。非大卒の労働者層の票を取ることが重要なのに、そのことを全く理解していなかったわけだ。
さらに、ハリス氏は「民主主義を守る」という方針も掲げていたが、大統領選の出口調査によれば、民主主義を重要視している層の実に約半数がトランプ氏に票を投じているのだ。
トランプ氏を支持する岩盤層は、黒人など少数派に対する差別の是正措置が強く働き過ぎており、「白人が差別されている」と考えている。
前政権でも重要な閣僚で、今回は政策担当大統領次席補佐官となるスティーブン・ミラー氏は、今回は「白人への差別をなくさせる」と宣言。そうした問題意識に対抗できない民主党指導部の問題は、根深いと言わざるを得ない。
ハリス副大統領と与党・民主党に圧勝したトランプ前大統領は続々と新閣僚候補を発表し、布陣を固めつつある。次ページでは、それら閣僚候補者について解説すると共に、そこから透けて見えるトランプ氏の狙いを明らかにする。