では、AFP通信の場合どんな「意図」かというと、一言で言えばニュースの切り取り方に「欧州の価値観」が押し付けられてしまう。欧州メディアなのでどうしても欧州中心で物事を考えて、「欧州の社会問題=世界の社会問題」というバイアスがかかってしまう。
その代表が「移民」だ。AFP通信のあるフランスでは全人口の10%が移民となり、治安の悪さや貧困率、人種差別などさまざまな問題が起きている。欧州全体でも移民は頭の痛い問題だ。そういう社会問題を抱える欧州のメディアなので当然、「移民」はキラーコンテンツとなる。世界中の支局もその価値観に引きずられ「移民コンテンツ」が量産されていく。最近でもこんな感じだ。
- 英人口、過去最大1%増の6830万人 移民が押し上げ(ロンドン 2024年10月9日)
- 移民強硬派ホーマン氏「国境管理トップ」復帰へ トランプ次期政権(ワシントン 2024年11月11日)
- マスク氏、移民問題でイタリアの判事を非難 野党は内政干渉と反発(ローマ 2024年11月13日)
ここまで言えばカンのいい方はもうお分かりだろう。このバイアスこそが、ラジュ会長CEOの「海外から人材を受け入れる」という発言が、「移民を受け入れ」に変換されてしまった理由である。
そもそも、「欧州の価値観」に照らし合わせれば、日本政府やラジュ会長CEOがいう「海外から人材を受け入れる」ということは「移民政策」以外の何ものでもない。日本の価値観では両者は違いがあるので、日本のメディアはさすがにこういうダイナミックな「意訳」はしないが、欧州のメディアからすれば「だって同じことでしょ?」の一言で片付けられてしまうのだ。
メディアの中で働いたことがある人間ならば、こういうバイアスは身をもって体験しているものなので、「ああ、このメディアはこういうニュースで社会に問題提起したいのね」という意図がある程度読める。アメリカ人もそうで、多くの国民はメディアに「意図」があることを理解している。保守系、リベラルでメディアの論調は180度異なるからだ。実はこれは中国人も同様で、「人民日報」を読むとほとんど人たちは「ああ、共産党は今こういうプロパガンダをしているのね」と冷ややかな目で見ている。