利用率が低調な
4つの理由

 メリットが大きいように感じられる結婚・子育て資金の一括贈与だが、低調な利用率が廃止の議論理由となっている。実はこの制度、ひと言で表せば「使いにくい」のだ。使いにくさの理由は、以下4点が挙げられる。

 まず1つ目が「受贈者の年齢制限」だ。贈与を受け取る受贈者は18歳以上50歳未満に限られる。しかし、日本は年々晩婚化が進んでいる。こども家庭庁が2024年7月に発表した「結婚に関する現状と課題について」によると、50歳時の未婚割合は1980年に男性2.60%、女性4.45%であった。しかし、2020年には男性28.25%、女性17.81%に上昇している。

 この傾向が続けば、50歳時の未婚割合はいずれ、男性で全体の3割近く、女性で全体の2割近くになると推計されている。本制度は晩婚には対応できないのだ。

 2つ目には「専用口座の開設」が必要な点だ。父母などから資金を受け取る場合、金融機関で本制度の専用口座を受贈者名義で開設する必要がある。開設時には金融機関側と結婚・子育て資金管理契約も締結せねばならず、今ある普通預金や定期預金の口座は利用できない。

 某銀行の場合、口座開設時に1万1000円(税込)の手数料が求められる。面倒な上、手数料を支払い、専用口座を開設することから始めなければならないのだ。

 さらに、3つ目には「領収書が必要」な点が挙げられる。本制度は事前に金融機関側と資金の払い出し方法を決めておく必要がある。決められた方法で口座から資金を引き出した後、さらに領収書を金融機関側へ提出する必要があるのだ。領収書の形式にもさまざまな制約が設けられている。たとえば、挙式や結婚披露宴の開催のために資金を支出した場合は、「結婚」や「marriage」などが記載されていなければならない。

 4つ目に「贈与者が死亡すると相続税が発生してしまう」点である。本制度で受け取った資金が残っている途中で贈与者が亡くなってしまったら、残債は相続税の課税対象となるのだ。つまり、受け取った資金は早急に使い切っておかなければ相続税の節税の効果は薄くなってしまう。

 また、本制度を用いて資金を受け取っても、受贈者が50歳に達した時点で残っている資金は「贈与税の課税対象」となってしまう。非課税で受け取り、少しずつ大切に使っていると、結果として贈与税の対象となってしまうリスクもあるのだ

 結婚・子育て資金の一括贈与は、結婚や不妊治療、分娩時の費用などに使えるが、贈与を受ける受贈者の所得が前年に1000万円を超えていると使えないという要件もある。このような使いにくさから、本制度はあまり利用されておらず、使いやすい暦年贈与などが選ばれてしまうのだ。