家業を継ぐと辞めた元職人
兄貴分と慕っていた従業員も続いて退職

 ある日、桑原さんは元社員で職人である矢永基直さん(29歳・男性)が同業の新会社を立ち上げ、桑原さんの会社の従業員を引き抜いて営業を行っているといううわさを聞きました。

 矢永さんは半年前に、群馬県の実家に戻り家業の左官業を継ぐという理由で退職した社員でした。矢永さんを兄貴分と慕っていた若い従業員2人もその数カ月後に「やりたい仕事ができた」という理由で退職しました。

 桑原さんは「できることがあればサポートするから」と快く送り出したのでした。

 桑原さんは、快活で働き者だった矢永さんの性格を考えると、そんなうわさは信じたくはありませんでした。しかし、数日して別の知り合い数人からも同様のうわさと、桑原さんの会社の顧客に挨拶回りをしているという話まで入ってくるようになりました。

「もしかしたら矢永さんは大事な顧客リストのコピーを所持していて、自社の顧客が狙われるのでは?」という疑念が桑原さんの頭の中から離れなくなりました。

 そういった状況に至り会社と顧客を守るため、桑原さんは知り合いを通じて私の元に相談に来られました。

 必要な情報を聞き取り、翌日からすぐ調査に取り掛かりました。

 矢永さんの居住地については実家の情報はなく、退社前までの情報しかありませんでしたが、まずはそこから調査を始めることにしました。

 6年前の入社時に受け取った履歴書に書いてある住所のアパートに行ってみましたが、部屋番号のポストには別人の名前が書いてありました。

 隣人に聞いたところ矢永さんのことを覚えていましたが、数カ月前に引っ越したとのことでした。私は実家を見つけだすしかないと思い、お礼を言って立ち去ろうとすると、隣人は矢永さんの姿を今でも見るらしく、歩いて3分ほどにある所有車の駐車場を教えてくれました。

 私はその駐車場に急いで行きましたが、午前9時過ぎの時点では車は止まっていませんでした。