コロナ禍の影響で遠隔診療への扉が開かれた。今は診断や慢性疾患の経過観察、医療相談が主だが、最終目標の一つに遠隔ロボット手術がある。
昨年末、専門誌に掲載された中国と米国の研究者による「実装検証」では、中国山東省・青島大学附属病院の泌尿器専門医が5G(第5世代移動通信システム)を介して、遠隔ロボット手術を実施。これまでも実装検証は行われてきたが、動物を対象としたケースや、術中の助言などにとどまっていた。
しかし、今回の対象は人間の患者に対する腹腔鏡下副腎腫瘍の摘出術15例。しかもマスターコンソールに陣取る執刀医と、腹腔鏡カメラや鉗子がセットされたロボットアームを設置した手術室(物理的な準備や万が一のときのバックアップとして助手が控えていた)との距離は、最大250キロメートルも離れていたのだ。
たとえば、東京23区内の専門病院に所属する執刀医がそこに居ながらにして、東京から250キロメートル圏内──関東一円~南東北、甲信越~一部の東海地方の病院で手術室に横たわる副腎がんの患者にロボット手術を行うイメージだ。
評価のポイントは、手術の成功率と術後合併症の有無などで、手術から3カ月後、半年後の状態も調査された。
その結果、手術の成功率は100%。術中の出血が少なく患者の状態も安定していた。退院時の術後合併症は治療の必要がない軽いもので、3カ月後、半年後の検査でも異常は認められなかった。
一方、術中に6件の通信障害が発生している。その全てが遅延でマスターと実行側のアームの同期が数十秒間止まったが、問題なく解消した。研究者は「今回はネットワークを優先的に割り当てるなど準備が万端だったので、実用化には議論の余地はある」としつつ、「5G遠隔ロボット手術の実行性は証明された」としている。
遠隔ロボット手術には、人材に乏しい地域医療の支援や災害・紛争時の遠隔治療が期待されている。社会実装が叶えば、住み慣れた地域で高度専門医療を受けられる道が開ける。国内でも実装に向けた検証と環境整備が必要だ。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)