「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。

【あなたは大丈夫?】エリートだった人ほど、人生後半で破滅してしまう理由Photo: Adobe Stock

中年の危機の正体とは?

 一般に、私たちのアイデアを出す力=流動性知能は、20歳前後でピークを迎え、その後、年を経るごとに急速に低下していくことがわかっています。アスリートが明確にフィジカル面での「人生におけるピーク」を持っているのと同様に、知的生産に関わる私たちにもまた「人生におけるピーク」が存在し、しかもそれは一定程度、予測が可能なのです。

 カリフォルニア大学の社会心理学者、ディーン・キース・サイモントンは「知的生産に関わる職業」に就く人々のキャリアの生産性を統計データとして集計・分析し、平均的には20年目前後に生産性のピークを迎え、その後は急速に低下していくというモデルを提示しました。

 つまり、20代の半ばでキャリアをスタートさせた人であれば、40代の半ばから後半……つまり、本書の枠組みで言えば「人生の夏」の後半期に、減衰が始まるということです。よく言われる、「中年の危機」は、この知的生産能力の減衰と大きな関係があります。

 フロイトと並んで分析心理学の確立に多大な貢献をしたカール・グスタフ・ユングは、彼の著書『心理学と錬金術』において、40代を「人生の正午」という美しいメタファーで表現しました。ユングによれば、人生におけるこの時期は、人生において太陽が最高点に達する眩しい瞬間であると同時に、それはまた「日が昇るプロセス」から「日が沈むプロセス」へと移り変わる寂しい瞬間でもあるのです。

 ユングによるこの比喩は、40代が、個人の人生における重要な転換点であることを象徴的に示していますが、サイモントンの研究結果は、ユングの指摘に対するデータ的な裏付けを与えるものだということもできるでしょう。

 このような話をすると、すでに「人生の夏」の後半、あるいは「人生の秋」以降のステージに入っている人はガックリするかもしれません。筆者自身がすでに「人生の秋」に思いっきり突入しているので気持ちはよくわかるのですが、ここはいったんクールになりましょう。

 というのも、サイモントンの指摘を多少は割り引いたとしても、いずれにせよ加齢によって訪れる変化が避けられないものである以上、その変化を踏まえずに考えられた戦略や計画は必ず破綻するからです。

 であれば、私たちは、むしろ避けられない変化をポジティブな契機として捉えて、それをしなやかに取り込むような戦略や計画を考えるべきでしょう。

 エリートだった人ほど、この変化を受け入れることは難しくなります。「第一線から退く」ことを受け入れることができず、虚無感に襲われ、最悪の場合アルコール依存や暴力などの問題を引き起こすこともあり得るのです。