「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』。「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。

タイミングが悪い人は正しいことをやっていてもパッとしない
経営戦略を議論する際には、よく「WHAT=何を?」や「HOW=どうやって?」という論点に焦点が当てられがちですが、実は「WHEN=いつ?」という論点は前者と同等、いやそれ以上に重要です。
個人にも組織にも「やっていることはそれほど間違っているわけではないのに、今ひとつパッとしない」ということはよく見られますが、概して「タイミングが悪い」というのが原因であることが少なくありません。
では、どうすればいいのでしょうか。
放り出すようなアドバイスですが、それには「兆しを捉える」しかありません。ものごとの大きな変化が顕在化しているわけではないのだけど、そのような大きな変化が起きる兆候がすでに表れている、その兆候を捉えることでしか、キャズムのタイミングを把握することはできないのです。
この「兆し」を捉えるためには「変化率」に着目することが重要です。
アマゾン創業者のジェフ・ベゾスは、1990年代の初頭、ヘッジファンドに勤務していましたが、そこで「インターネットの市場成長率は2300%」とするレポートを読んで衝撃を受け、非常に恵まれた待遇であったにもかかわらず、このヘッジファンドを退職してアマゾンを創業します。このエピソードはよく知られていますが、特に印象的なのが、このときにベゾスが見せた「身も蓋もない焦り方」です。
ベゾスは1994年にヘッジファンドを退職し、拠点をニューヨークからシアトルに移したのち、一年後の1995年にはアマゾンのウェブサイトを公開しています。会議室にふんぞり返りながら「時期尚早である」として、貴重な時間を無為に垂れ流した多くの日本の経営者とは対照的に、非常に短期間で事業を立ち上げているのです。ベゾスは、なぜかくも性急に事業の立ち上げをやろうとしたのでしょうか?
本書をここまでお読みいただいた読者にはもうおわかりでしょう。そう、ベゾスは、このタイミングが、まさに「市場が爆発的に成長する一瞬」であることを見抜いていたのです。ではなぜ、ベゾスはこの点に気付けたのでしょう。
ポイントになるのが、ベゾスが衝撃を受けた「2300%」という数値です。多くの人は、事業性を評価する際、市場の規模や顧客の数など、その時点での「市場や社会の断面図」に意識を向けがちですが、ベゾスが注目したのは「変化率」……数学の用語で言えば微分値なのです。
これはベゾスに限らず、優れた経営者にしばしば共通してみられる特性ですが、彼らは、「微分のレンズ」とでもいうべき視点で社会の変化を捉えているのです。これは「キャズムのタイミング」を捉える上で非常に重要な視点です。