「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。

職場にいる「出世はしたのに人生は破滅してしまう人」の特徴・ワースト1Photo: Adobe Stock

「正しい戦略」は「正しい目標」が大前提

 モンテーニュが『エセー』で指摘した通り、私たちは、正しい目標を欠いてしまうと、偽りの目標を設定してしまいます。そして、偽りの目標を設定すれば、どんなに論理的に正しい戦略を設計してもプロジェクトは必ず破綻します。ここに、個別戦略論の是非を云々する前段階として「プロジェクトの目的=パーパス」について思考する理由があります。

 ということで本書では「人生というプロジェクトの長期目標」を次のように設定します。

 時間資本を適切に配分することで持続的なウェルビーイングの状態を築き上げ、いつ余命宣告をされても「自分らしい、いい人生だった」と思えるような人生を送る

 この定義には3つのポイントがあります。

 まず、ひとつ目のポイントが、人生の経営戦略=ライフ・マネジメント・ストラテジーの検討において、私たちがコントロールできる戦略変数は「時間資本しかない」ということです。

 戦略の策定において、戦略変数の見定めは決定的に重要な要件となります。私たちはしばしば、人生を計画する際、他者や組織や社会など、自分ではコントロールできないものを動かそうとして、無用な努力を重ねてしまいます。本書ではこの愚を犯すことを避けるため、自分でコントロールできる戦略変数、すなわち「時間資本」にフォーカスを当てます。

 次に、2つ目のポイントが、人生の経営戦略=ライフ・マネジメント・ストラテジーの検討においては「時間資本をいかに配分するか」が中心的な論点になる、ということです。なぜなら、戦略とはつまるところ

資源配分のアートとサイエンス

だからです。古代に書かれた『孫子の兵法』以来、歴史上あまたの戦略論が唱えられてきましたが、その中心的な課題はつねに「戦略資源をいかに配分するか」でした。私たちが人生を通じて必ず持っている資源は「時間資本」ですから、これをどのように配分するか、が人生の経営戦略=ライフ・マネジメント・ストラテジーにおける中心的な論点となります。

 最後に、3つ目のポイントが、本書で設定するプロジェクトの目的は、「お金持ちになること」でも、「会社で出世すること」でも、「社会的な栄誉を得ること」でもなく、「持続的なウェルビーイングの状態を築くこと」を目指す、ということです。

 1974年にアメリカの経済学者、リチャード・イースタリンが「所得が一定の水準を超えると人々のウェルビーイングは伸びなくなる」という「イースタリン・パラドクス」を発表して以来、多くの研究が「お金や地位や名誉といったものは一定程度を超えてしまうとウェルビーイングと相関がなくなる」ことを示しています。従って本書では、これらの要素をあくまで「ウェルビーイングを実現するための基本要件」と捉えます。

 注意して欲しいのが、この目的設定における「持続的」という要件です。これは何をいっているかというと、本書では「人生の最後にウェルビーイングを実現すればいい」という考え方を採用しない、ということです。

 理由は単純で、私たちは「自分がいつ死ぬか」を知らないからです。「人生の最後」がいつなのか、その時期が確定しない以上、これを目的に設定することはできません。だから「いつか」ではなく「いつも」、つまり「持続的」ということが重要なのです。