ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第22回は「伝える」の定義について考える。

無関心な人を惹きつける「伝え方のコツ」とは?

 東大現役合格に向けて英語の勉強を始める早瀬菜緒と天野晃一郎の2人に、東大合格請負人・桜木建二は驚きのアドバイスをする。英語を使ったアウトプットの機会を増やすため、早瀬にTwitter(現X)、天野にYouTubeで英語の配信をしろ、というのだ。

 恥ずかしながら私も、高校1年生の時に音楽系のYouTubeをやっていたことがある。私の名誉のためにもチャンネル名は明かさないが、数カ月で飽きてそのまま放置してしまった。

 それはともかく、私は「文字や映像で外部に発信をする」ことに関しては並々ならぬ情熱を抱いた時期があった。母校・桐朋高校で生徒会長を務めていた時のことである。

 突然だが、皆さんは「生徒総会」という単語に聞き覚えがあるだろうか。残念ながら、多くの人はノーと答えるだろう。生徒総会とは、生徒会の役員が生徒会活動について報告したり、予算や決算の承認を行う重要な行事である。

 よほど生徒会に興味関心がある学校でない限り、生徒総会の時間は(不本意ながら!)自習や歓談に使われるのがオチである。

 私の学校とて例外ではなかった。例年は体育館で行っていたのだが、コロナ禍で音声放送に移行して以来、もはや生徒総会を聴いているのはクラスに数人。生徒会長としてこれは何とかせねばと危機感を抱いていた。

 そこで私は、生徒会活動の内容を紹介する映像を作成し、各クラスで放映したのだ。普通の映像じゃつまらない、何とかして生徒の注目を集めたい!

 そう思った私は、役員になってまだ1週間しかたっていない後輩達に脚本を任せてみた。より生徒目線で楽しめる映像を作るためだ。数日後、出来上がった脚本を見て何とびっくり、そこに書かれていたタイトルは『転生したら生徒会長になっていた件』

「撮影場所が学校に限られる。だから舞台設定を変えなくてはいけない異世界転生ものは、作りこみが難しい」との冷静な指摘もあり、この企画は『生徒会長が記憶喪失になった件』と名前を変えた。

 他にも『報道ステーション』のパロディ番組『桐朋ステーション』や、役員の名前を冠した『ワタベの知らない生徒会の世界』を役員総出で大マジメに作った。

 こっそり各クラスを回って見ると、嬉しいことにほとんどの生徒が映像をしっかりと見てくれていた。アンケートに「生徒会にこんなに興味を持ったのは初めて」と書いてあったのは忘れられない。

伝える=「意味の固定」

漫画ドラゴン桜2 3巻P137『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

 これはいけるぞ!と思った私は次の作戦に出る。

 当時最大のプロジェクトであった30年ぶりの生徒会会則改正に向け、その内容をいかに生徒に周知するかが課題であった。

 そこで私たちは、東進ハイスクールの講師紹介や岡野タケシ弁護士のパロディなど、全部で25本の動画を作成し、Instagramで公開した。ありがたいことに累計4万2450回再生され、多くの生徒から反響をいただいた。

 個人情報の都合上これらの映像をお見せすることはできないが、「正確さ」と「エンタメ性」の両立ができたことは嬉しい。活動を通じて見えてきた「正しい×楽しい=面白い」という式は、今でも私の信念になっている。

 これらの取り組みで得たことは、単なる話題作りにとどまらない。

 外部に対して発信することは、必然的に「これは発信する価値があることなのだろうか」という問いを生む。その問いにイエスと胸を張って答えられるよう、生徒会活動の根幹を何度も見つめ直した。

 何かを言葉にして伝える、それは「曖昧なままで許されていたことを不変の形に固定する」ことである。本編で描かれていた英語の受験勉強に限らず、森羅万象に通じることだろう。

漫画ドラゴン桜2 3巻P138『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク
漫画ドラゴン桜2 3巻P139『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク