新日本酒紀行「義侠」山忠本家酒造入り口 Photo by Yohko Yamamoto

父から受け継ぐ酒造りを錬磨!滋味あふれる高級熟成酒

 義侠という酒名は明治期に遡る。酒の腐造が相次ぎ、価格が高騰する中、山忠本家酒造だけは年初の契約を守り、売価を上げずに出荷した。「義理と任侠の酒蔵だ」と酒販店から、酒に義侠の名を要望されて銘柄に。10代目の山田明洋さんは、50年前、桶売りの低価格路線から、高価格路線へ舵を切った。兵庫県・東条特A地区の山田錦の米農家と関係を築き、最高級の酒米で醸した酒を冷蔵で熟成、さらに複数年のブレンドやヴィンテージにも注力。高級熟成酒の義侠ブランドを確立した。だが、癌で余命宣告を受け「みんなで酒を酌み交わしたい」と、2018年に盛大な生前葬を行った翌年に逝去する。

 その父の思いをガッシリと引き継いだのが次男の昌弘さんだ。酒造りの根幹は変えず「毎年、過去最高の酒」を目指し、蔵人全員で検証を重ね、作業の意味を明確化。「昔からこうだった、は言うな」が口癖だ。深く太く、滋味あふれる初心者にこびない酒は、はやりの甘い酒とは一線を画す。「酒を評価するのは消費者だけ」と鑑評会にもほぼ出ない。

 コロナ禍後に、蔵内の母屋などを厨房と客席に改装し、より義侠を好きになってもらうために、一流料理人による常連客の会を開催。一般公開しないため、垂涎の料理会と称される。11代目となる昌弘さんだが「父が大改革したので、自分は2代目」と語り、受け継いだ酒蔵のあるべき姿を錬磨。五感に響く酒、米農家に未来を期待される酒蔵へ向かって歩み続ける。