
株式市場の活況が続き、NISAの利用率もアップしていることから、個人の株主が増加している。第一生命経済研究所によると、2024年3月末時点における個人株主は前年の2023年より36.2万人増加し、約1525万人に達している。相続時に被相続人が生前に所有していた財産の中にも株式が含まれることは多く、上場株式を含む有価証券は、年々相続財産の構成の割合が高まっている点について、以前筆者が本サイト内で紹介している。株式も含めた相続税対策を検討している方も多いと思われるが、2017年度の税制改正において物納できる財産順位に変更があり、上場株式が第1順位に繰り上がっていることをご存じだろうか。従前は第1順位に国債、地方債、不動産及び船舶のみであったため、相続人は以前より物納しやすくなっている。相続税申告時に上場株式で物納を行う場合、相続税評価額がそのまま価額となるため、実はメリットが大きい。そこで、本記事では「下落した株を相続税の物納に生かすメリット」を解説する。(税理士・岡野相続税理士法人 代表社員 岡野雄志)
相続税は物納できる!
財産順位と物納できる財産とは
相続税は原則として現金で納付する必要があるが、物納も認められている。ただし、物納を認めてもらうためには2つの要件をいずれも満たしている必要がある。
1つ目に「延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること」、2つ目は「物納申請財産は、納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、日本国内に所在する次に掲げる財産であり、かつ次の順位(1から5の順)によること」とされる。物納できる財産には優先順位があり、物納申請を行ったら税務署長が物納の可否を決めるために審査を行っている。
物納制度の優先順位とは、第1順位から第3順位まである。第1順位内で認められている財産には2つの区分がある。1つ目は「不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等」で、
2つ目は「不動産および上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの」である。第2順位以下には非上場株式や動産が挙げられ、順位に該当しない財産は物納できない。
物納制度は相続税にのみ認められており、贈与など他の制度には適用できない。相続税の物納制度の歴史は古く、日中戦争の拡大に伴い相続税の増税が相次いだことを背景に、1941年に導入された。相続税はそもそも存在していない国も多いが、隣国・韓国には我が国と類似の物納制度がある。イギリスやフランスでは美術品などによる物納が認められている。