
不倫する男性は世の中に「都合の良い愛人」と「都合の悪い愛人」の2種類がいると思っている。しかし、実際は都合の良い愛人だっ女性が傷ついて絶望し、自らの不貞を晒してでも男に復讐する「やばい女」に変貌するものなのだ。愛人を「やばい女」にする男性の特徴とは。本稿は、鈴木涼美『不倫論 この生きづらい世界で愛について考えるために』(平凡社)の一部を抜粋・編集したものです。
社会的にほぼ殺される
不倫発覚は愛人の告発から
一昔前までは浮気は男の甲斐性だとか、不倫も芸の肥やし、妻も愛人も幸福にしてこそ本物の男なんて言葉が当たり前に使われていたし、今でも世間的な流れとは関係なく、離婚を前提としない遊びとしての浮気を当たり前に楽しんでいる人は結構いる。
一方で、その事実が明るみに出ることで社会的にほぼ殺されるような事例もここ5年でずいぶん見られて、その落差にどこか不気味さや現実味のなさを感じているおじさん方は多いんじゃないか。
ベン・アフレック主演の『ゴーン・ガール』(注)は、妻の失踪をきっかけに始まる謎解きミステリーだが、情事を告発する愛人の心理や妻の復讐心、浮気によってあらゆる信用をなくす夫、マスコミの暴力性や視聴者のミサンドリー(男性嫌悪)などが各所に断片的にちりばめられた作品だ。妻の殺害容疑をかけられ、誰からも信用してもらえなくなった夫と弁護士の会話にこんなものがある。
「(妻への愛を大衆に語ったことで)傷ついた愛人が浮気を告白するぞ」
「彼女は絶対にそんなことはしない」
「全ての愛人はそうするのさ」
そして案の定、愛人の告発によってますます夫は窮地に追い込まれていくのだけど、とりあえず映画の話は置いておいて、確かに愛人の告発によって不倫が発覚する事件は芸能界でもあった。そしておそらく彼も週刊誌報道が出るとわかる直前まで、自分と多目的トイレでお楽しみの時間を過ごした、自分に惚れているはずのギャルズが、週刊誌に被害者のような顔で密告することなど考えてもいなかったのだろう。
「都合の良い愛人」と
男が女を勝手に認定
有名人の場合、最初から週刊誌や敵陣営などへの情報提供を狙って近づくいわゆる「ハニートラップ」を警戒する人は多い。しかし、そのようなトラップではなく「お互い好き合っている上に既婚であることは了承済みで付き合う割り切った恋人」が告発するなんて夢にも思わない、という人がほとんどだ。
実際はハニートラップよりも、もともとは密告を目的としていたわけではない、浅はかだけど悪気のない愛人たちによる告白の方がよほど現実味があるのだけど。
(注)デヴィッド・フィンチャー監督『ゴーン・ガール』(2014年、アメリカ)。ロザムンド・バイク、ベン・アフレック主演のミステリー映画