男だけ得をしている構造に
女が気付くのは時間の問題
よく考えてみればすぐにわかることだが、彼らの、安定した家庭は欲しい、でも刺激的な夜も欲しいという行動は、他人に犠牲を強制している。単に時間だけを考えても、妻が自分と過ごす時間を奪って愛人と会っているわけだし、愛人が他の男と出会う機会を奪って自分に付き合わせているのだ。
もし彼らが何かを犠牲にしたり、そのために弛まぬ努力をしたりすることを、さらさら考えてもいない場合、彼一人だけが、何一つ不満のない生活を送り、そのために少なくとも2人以上の人間が、不満のある生活を、彼が原因で送ることがある。そしてこの、無自覚な「自分だけ得してる」構造に、女たちが気付くのは時間の問題。
私は男も女も禁止されていることをすると気分が高揚したり、興奮したり、最高に楽しかったりするのはよくわかる。私自身も、清廉潔白な生活を送ったことなんてない。
しかし、悪いことをする人は、実は悪いことを全然しない人に比べて十倍も百倍も努力をしなくてはすぐに破綻する。破綻してこなかったとしたら、単にものすごく運がいいだけである。
鈴木涼美 著
逆に言うと、妻に密告されたり、慰謝料を請求されたりすることと無縁で、トラブルなく「悪さ」を楽しんでいる男性たちは、自覚的であるにしろ無自覚であるにしろ、妻や愛人に、「普通の真面目なパートナー」がする何百倍もの幸福感や満足感を与えている場合が多い。もちろんそれが金銭であることもあるし、特別な趣味や最高のセックスだったりすることもあるだろうが、何にしろ、「自分だけ得」にならずに「相手も得」な関係を作っているのだ。
世間は愛人は共犯なのだから被害者感情を持つのはおかしいと怒るだろうし、それはある意味当然の意見なのだが、愛人を被害者気分にさせずに、幸福にさせて、親切にすることは、結果的に彼女たちの人間らしい行動の呼び水となり、家庭や仕事など自分の愛するものを守ることにもなる。