畳一枚くらいの絵を一晩で……
経営者も羨む脅威の集中力
――どんな点に度肝を抜かれたのでしょうか?
目に映る作品すべてが繊細かつダイナミック。加納さんは、この絵を「昨日の夜から今朝にかけて描いた」と言うんです。加納さんの作品は畳一枚ぐらいの大きなものなのですが、それを一晩で描き上げてしまうスピードと集中力に驚愕しました。
さらに驚いたのは、「頭の中に設計図ができているから、同じ絵を何枚でも描ける」ということです。経営においても「スピードと集中力」はとても重要ですから、加納さんが絵を描いているときの感覚や思考のプロセスはどうなっているのか、非常に興味深いですね。
不思議なことに、加納さんの絵は、なぜかずっと見ていたくなるんです。私はゴーギャンやモネの作品が好きなのですが、彼らの絵を観たときには起こらない感情です。他の人はどう感じるのだろうという興味もあって、後日、文化庁長官の都倉俊一さんをお誘いして京都の東寺で開催していた加納さんの「無常」展を訪れたんですが、都倉さんも、「絵の中に引き込まれるような気持ちになる」と絶賛してくださいましたね。
よく、「人生が終わる瞬間、思い出が走馬灯のように蘇る」と言います。私も漠然と、臨終の瞬間というのはそういうものなのかな、と思いましたが、加納さんの絵を観て認識が変わりました。最期に脳裏に浮かぶ景色というのは、具体的な思い出ではなく、この絵のような風景じゃないかなと感じたんですよ。
美術館で気づかされた
アートがいかに経営や人生に必要か
――「アート」と「ビジネス的感覚」の共通点に気づいたのはいつですか?
JTBで1993年にモチベーション事業をスタートした当初、仕事で高いパフォーマンスを上げている人たちにインタビューを行って、「どんな瞬間に最もモチベーションが高まるのか?」を調査したんです。すると、「好きなことをしているときに最もモチベーションが高まる」と答えた人が多かった。それが、トライアスロンのようなアクティビティである人もいれば、美術館で絵を見たり、音楽を聴くことでモチベーションが高まる人もいる。
