ビジネス感覚にもたらした変化
部下の育成で最も重要なこと
――加納さんの絵にふれて、大塚さんのビジネス感覚に変化はありましたか?

1986年株式会社日本交通公社(現:JTB)入社。法人向け旅行事業を経て、1993年に株式会社JTBモチベーションズの立ち上げに携わる。中高生向け職業情報サイト「ジョブシャワー」の立ち上げや、企業向けコンテスト支援ツール開発など、常に新しい価値創造に挑戦。JTBグループ内で中核的な役割を歴任し、現在は取締役専務執行役員としてビジネスソリューション事業を牽引する。
明らかに変わりましたね。加納さんの創作のキーワードに「無常」という考え方がありますが、これを僕なりに解釈すると、マクロな視点とミクロな視点を自在に行き来しながら対象を捉えることが「無常」なのだと考えています。
ビジネスの世界では、ある課題に直面すると、その課題に対して過剰にフォーカスするあまり、大局観を失ってしまうということがたびたび起こります。加納さんの絵を見ていると、初めは一筆一筆の繊細なタッチに目を奪われるのですが、次に半歩下がって俯瞰で観てみると、絵の印象が一変するという不思議な感覚にとらわれるんです。マクロの視点とミクロの視点を行き来しながら思考することが、経営者の思考においても大切だなということを、加納さんの絵と出会うことで気づかせてもらいました。
企業の経営やプロジェクトマネジメントをしていると、無意識のうちに「これはこうあるべきだ」というエゴが出てきてしまう。それを取り除くのが無常観だと思うんです。リーダーは、ポテンシャルがある若手社員に対して、言葉では「可能性を信じる」などと言いますが、心の底から信頼できているかというと、そうでないケースが多いものです。リーダーの心の中に「真の無常観」が備わっていたら、心底から「失敗もあなたのパワーになる」と思えるはずです。
「右脳的な思考」も「無常観」も、その効用は明確に認識できるけれど、言葉で伝えることは容易ではありません。しかし、優れたリーダーたちがアートに親しんでいるのは、こうした効用を求めているからだと思います。経営的判断に迷ったり、部下との関係に悩んでいたりする方は、この週末、ぜひ美術館へ足を運んでみてください。