そこで、ふと我が身を振り返ってみると、高校、大学、社会人とラグビーをやってきましたが、文化活動にはほとんど縁がなかったことに気づきました。そこで試しに美術館に通い始めたら、「なるほど、こういうことか!」と腑に落ちたんです。
当時の私は、新規事業を立ち上げたばかりで、寝ても覚めても仕事のことを考えていました。そんなある日、上野の美術館へ足を運び、静謐な空間で絵を鑑賞していると、「この人はどんな時代を生きていたんだろう?」「どんな衝動にかられて、この絵を描いたんだろう?」と、頭が活発に動き始めて……過去と未来、理屈と感性の間を行ったり来たりしているうちに、いま自分が抱えている悩みが、いかにちっぽけなものかが見えてきました。
この体験を経て、アートがどれだけ自分の人生を豊かにするか、あるいは経営判断や意思決定をする際に、理屈だけではないプラスアルファがいかにできるかっていうのが大きいということに気づかされたんです。
憧れの経営者の共通点
「芸術に対する感性が鋭い」
最初の頃は、美術館へ行って絵を見ていても、頭の半分では、「明日アポイントあったな」とか「そろそろ、あの案件に着手しなければ」などと考えながら通路を歩いていたような記憶があります。それが、美術館巡りを続けるうちに、今では雑念をすべてクリーンアップした状態で美術館を後にすることができる……何とも心地いい感覚です。絵画を鑑賞してリフレッシュする人は、おそらく同じような感覚だと思うんです。
思えば、私が駆け出しの営業だった頃から憧れてきた経営者たちも、芸術に対する感性が鋭い人たちでした。経営者は、経済合理性だけでは解決できない課題に直面したときに、他者には任せることのできない重要な判断を下すことが仕事です。だからこそ、普段からアートのような「答えのないもの」に触れて、いま何を感じているかを自問し続ける「右脳的な思考」が不可欠だと思うんです。