今年1月2日、ラスベガスにある「トランプ・インターナショナル・ホテル」の前でテスラのサイバートラックが炎上し、1人が死亡、7人が負傷した。地元警察によると、爆発直前にコロラド州在住のグリーンベレー(陸軍特殊部隊)所属の男(37歳)が車内で頭部を銃で撃って自殺した。車内からは半自動拳銃など複数の銃器のほか、花火用の迫撃砲、ガスボンベ、ガソリン缶などが見つかったという。

 同じ日にニューオリンズでは、繁華街に大型車が突っ込み、14人が死亡、35人以上が負傷する事件が起きている。車を運転していたのはテキサス出身の米陸軍の退役軍人(42歳)で、現場で警察官と撃ち合いになって死亡した。こちらはイスラーム原理主義のテロ組織IS(イスラム国)に触発された犯行だと報じられている。2人の容疑者はノースカロライナ州の同じ陸軍基地にいたことがあり、アフガニスタンへの派遣経験もあるが、互いに知っていたことを示す証拠は見つかっていない。

 年明けに起きたこの事件が印象的なのは、その前にブルース・ホフマンとジェイコブ・ウェアの『神と銃のアメリカ極右テロリズム』(田口未和訳/みすず書房)を読んでいたからだ。ホフマンとウェアは極右を中心にアメリカのテロリズムを研究しており、米軍が極右テロリストを生み出す温床になっていると指摘している。原題は“God, Guns, And Sedition; Far-Right Terrorism in America(神と銃と反乱 アメリカの極右テロリズム)”。

『ターナー日記』では、白人世界の夢を実現するために有色人種の絶滅が書かれている

 ホフマンとウェアは本書で、アメリカの極右(白人至上主義)を理解する重要な作品として『ターナー日記(The Turner Diaries)』に繰り返し言及している。ウィリアム・ルーサー・ピアースが1978年に発表した小説で、連邦政府が「コーエン法」を施行して、市民が合法的に取得した銃器を押収しはじめた2009年の未来世界を舞台にしている。主人公のアール・ターナーは「同胞の愛国者」たちとともに地下に潜伏し、「システム」に対してゲリラ戦とテロ攻撃を繰り広げる。

白人以外の絶滅さえ目論むアメリカの極右テロリストは、米軍がその温床になっているPhoto/bee / PIXTA(ピクスタ)

「システム」はユダヤ人に主導された政府、行政機関、メディア、金融機関などのネットワークで、いわゆるディープ・ステイトのことだ。「オーダー」と呼ばれるターナーたちの地下組織は、白人が銃によって自衛する権利を守ることを目的としており、テロの標的になるのは「役人、ジャーナリスト、著名なユダヤ人、アフリカ系アメリカ人、ヒスパニック系住民、その他の人種的マイノリティ、および商業旅客機の撃墜、地域の水道への毒の混入、公共施設の爆破」などだ。

 ピアースの小説では、1993年8月1日、反乱軍であるオーダーが「白人への裏切り者」と報告された裁判官、大学教授、弁護士、政治家、聖職者、ジャーナリスト、セレブリティなど白人エリートをロサンゼルスの路上で公開処刑する。「ロープの日」と名づけられたこの(架空の)出来事は白人至上主義者のシンボルとなり、2020年1月の連邦議会議事堂占拠事件では、トランプ支持者たちが議事堂前にロープ(絞首台)を設置した(本書の表紙にその写真が使われている)。

 オーダーは南カリフォルニアの空軍基地にある核兵器を押収し、ニューヨークとイスラエルに核攻撃を仕掛け、それをきっかけにソ連が核で反撃する。だがこの「世界最終戦争」でもワシントンDCやシカゴなどいくつかの大都市は破壊を免れ、システムは生き延びた。そこでターナーは、核兵器を搭載した小型飛行機でペンタゴンに“カミカゼ攻撃”を敢行し、革命のために殉教する。その後オーダーは、化学兵器、生物兵器、放射能兵器などによって有色人種を絶滅させ、「白人世界の夢がついに実現」したところで、この荒唐無稽で(有色人種からすれば)かなり不快な「人種主義(レイシズム)小説」は幕を閉じる(Amazonは『ターナー日記』を扱っていないが、インターネットでダウンロード可能。自費出版にもかかわらず50万部以上が売れたとされる)。

 著者であるピアースは1933年に南部の名門の家系に生まれ、大学で物理学を学び、原爆開発で知られるロスアラモス国立研究所で働いたあと、カリフォルニア工科大学とコロラド大学の大学院で物理学の博士号を取得した。1962年から3年間はオレゴン州立大学の助教授として物理学を教えていた。

 だがこの頃からピアースは、公民権運動やベトナム戦争に対する反戦運動を、ユダヤ人や共産主義者が主導する白人への脅威だと見なすようになったらしい。74年に白人至上主義組織「ナショナルアライアンス」を設立したピアースの危機感は、『ターナー日記』のなかでテロを肯定する次の一文によく表われている。

 罪のない数千の人々を傷つけることなく、「システム」を破壊できる方法はない――絶対に。それは、われわれの肉体にあまりに深く根を張った腫瘍なのだ。そして、「システム」に破壊される前に「システム」を破壊しなければ、われわれの生きた肉体から腫瘍を切除しなければ、われわれ白人種は絶滅するだろう。

 アメリカやヨーロッパの極右は「(リベラルが)白人を絶滅させようとしている」と唱えているが、それと同じことはすでに半世紀前にピアースによって主張されていたのだ。