ウイスキー写真はイメージです Photo:PIXTA

現在、国産ウイスキーの希少銘柄は実勢価格で数十万円という値段がつくこともある。そんな人気銘柄を定価購入し、転売している男性がいる。彼の転売には、百貨店のある制度が深く関係していた。本稿は、奥窪優木『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書)の一部を抜粋・編集したものです。

まさかのルートで
希少銘柄を確保

 通常、響30年を定価で購入するには、メーカーや小売店が行っている高倍率の抽選販売に当選するくらいしか方法がない。しかも2本も同時に定価で購入できることは、不可能といっていい。

 しかし田中(仮名)は、響に限らず、実勢価格で数十万円という国産ウイスキーの希少銘柄を繰り返し定価で入手しているのだ。

 なぜそんなことができるのか。

 それは彼が、百貨店Aの「外商顧客」だからである。

 外商とは、コンスタントに一定金額以上を消費してくれる「上客」を対象に、顧客の元に出向いて商品を販売したり、注文を取ったりする特別サービスのことだ。店舗の売り場の「外」で「商う」ことから外商と呼ばれる。

 外商顧客にはそれ以外にもさまざまな特典が提供される。たとえば、一般客が入れない特別なセールやイベントに招待されたり、外商顧客専用のラウンジを利用できたりといった具合だ。そして、なかでも大きな特典が、「優先販売」である。一般客は手に入れることが難しい限定品や希少な商品も、外商顧客なら優先的に用意してくれることがあるのだ。

 田中はこの特権を利用して、相場で50万円以上の響30年を定価で2本同時に購入することができたのである。

 彼が百貨店Aの外商顧客となったのは2021年の秋のことだ。その百貨店に入っているお気に入りのアパレルブランドを頻繁に利用しており、ワインや日本酒も購入していたため、パンデミック以前の数年間は、40~50万円ほどをその百貨店で支払っていた。支払いには、5%のポイント還元を目当てに百貨店発行のクレジットカードを利用していた。

入手困難な芋焼酎を飲みながら
高級酒の転売を思いつく

 そんな彼の元に、ある日、「特別なお客様限定のご案内です」と書かれた封筒が届いた。外商顧客への招待状だった。それによると、外商顧客となれば、追加の会費なしでポイントの還元率は10%に上がるという。さらに、何も購入しなかったとしても駐車料金が一定時間まで無料。特典に魅力を感じた田中は、招待状に記載されているQRコードをスマホで読み取り、誘導された申込用のサイトで、必要事項を入力した。