これにより田中の希少酒転売ビジネスはますます拍車がかかった。実勢価格が高騰している希少酒の多くは、決まって「1人1本まで」という購入制限が設けられていた。
一方で、3つの百貨店の全てに在庫がある場合は、家族である妻の名義も使って、最大で6本を購入することができるようになった。
奥窪優木 著
田中には、3人の外商担当者と付き合う上で、心がけていることがある。それは、数カ月に一度、彼らに贈り物をすることだ。贈り物の中身は、渡す相手とは違う外商担当者から購入した酒と決めている。例えば、百貨店Bの外商担当者から購入した実勢価格2万円前後の希少日本酒を、石田に手渡したこともあった。
これを受け取った外商担当者は、田中の心遣いを好意的に受け止めると同時に、自分と同じく彼に希少酒を提供しているライバルの存在を意識し、優先的に商品を回してくれるようになる。それが田中の目論見だ。
2022年4月からの1年間、田中は希少酒の転売で900万円以上の利益を手にした。実は希少酒を売却する場合、フリマアプリやネットオークションのほうが高値で取引できる場合が多い。
しかし、反復的に継続して酒類を売却すると、「業」としてみなされ、酒販免許の取得が必要となるだけでなく、売却益が所得税の課税対象となる可能性もあるため、前述の通りもっぱら買取店で売却するようにしている。田中は年間1000万円ほどになる転売収益について、所得税を納めていない。