「転売目的」に気付いても
外商部員は見て見ぬふり
石田は、毎月1、2回のペースで、確保した希少酒について田中にメールで知らせるようになった。
石田からみると、田中が選ぶ商品にはパターンがあった。まず、実勢価格が定価の3割増し程度の銘柄にはほとんど手をつけない。また、定価によらず、実勢価格が1万円以下のような商品にも興味を示さない。
一方で、実勢価格が数万円で、定価の2倍以上に跳ね上がっているような銘柄は、ウイスキー、ワイン、焼酎、日本酒とジャンルを問わず、即決する。1人当たりの販売本数に制限がない商品については、4、5本購入するということもあった。
「転売目的だな」
田中との取引を数カ月続けた時点で、石田はそう直感していた。しかし、売上ノルマに貢献してくれるのであれば、相手の購入目的などどうでもいい。
2022年春、都内でも最後のまん延防止等重点措置が解除された直後に、石田は田中と初めて面会した。平時において、担当者が自宅にまで御用聞きに来る外商顧客は、ごく一部の最上位客だ。田中の毎月の消費額は酒類を中心に10万円前後だったが、コロナ禍という状況を踏まえると、石田にとって上客のひとりであり、誠意を見せる必要があると考えたのだ。
また、それまでの田中とのコンスタントな取引が石田の実績となり、さらに希少性が高い国産ウイスキーの在庫についても裁量を与えられたため、商品をぜひ対面で紹介したいという思いもあった。
“仕入れ先”は3つのデパート
拍車がかかる“希少酒転売ビジネス”
一方の田中は、転売用の希少酒の入手ルートを石田以外にも広げていた。都内にある別の百貨店BとCでも、外商顧客となっていたのだ。いずれも、それまで継続した取引はなかった。
しかし、自宅のマンションのラウンジで知りあった会社経営者の藤井(仮名)がその2つの百貨店の外商顧客であり、彼の担当外商員をそれぞれ紹介してもらったのだ。田中は彼らに百貨店Aの外商顧客であることを告げた上で、利用履歴をメールで送付したところ、ともにインビテーションを送付してきた。それぞれの審査を経て、両百貨店での外商顧客となることができたのだ。