診断キットから治療薬開発へ
自己抗体産生の抑制も
チームは同時に、これまでのコントロール主体の治療法と比較して、劇的に効果が高く、副作用の少ない、根本的な治療法の開発も進めており、目標では、27年から臨床試験(治験)を開始することを目指している。
現在行われている治療法には、内科的治療と外科的治療がある。内科的治療は大腸の異常な炎症を抑え、病状をコントロールするステロイドや免疫抑制剤などの内服が中心となる。透析のような機械を用いて、血液中から異常に活性化した白血球を取り除く「血球成分除去療法」や、生物学的製剤(抗TNFα抗体製剤など)の点滴または皮下注射で投与する方法もある。
多くの場合、内科治療で症状は改善するが、「内科治療が無効な場合(特に重症例)」「副作用などにより内科治療が困難な場合」などは、外科治療(大腸全摘)になる。まずは体内にパウチを埋め込んで便が貯められるようにするが、パウチに潰瘍ができた場合には、小腸の一部を使って大腸を形成する。大腸は水分を吸収し、栄養の吸収を担うのは小腸なので、患者のQOLは保たれる。
「大腸全摘になるのは全体の5%ぐらいです。でも、全摘された患者さんには『もっと早く取ればよかった』と言う人もいます。それくらい、つらかったと言うことです」(桒田医師)
すぐにでも可能な治療法としては、「血球成分除去療法」と同じように、全身の血液から原因となっている自己抗体を除去する治療法があるが、将来的には免疫細胞に働きかけて、問題の自己抗体が体内で産生されないようにする治療薬を開発したいと言う。
塩川、桒田の両医師はもともと、肝臓と膵臓の免役疾患を専門に診療と研究を行って来た。特に思い入れがあるのは「原発性硬化性胆管炎」。これは、肝臓の内外の太い胆管が障害されて胆汁の流れが悪くなり、肝臓の働きを低下させる病気で、潰瘍性大腸炎と同じく、何らかの免疫学的異常により引き起こされる難病だ。
「原発性硬化性胆管炎は、肝臓の病気の中でも最もミゼラブルな疾患の一つです。薬も何もないので、目の前で、患者さんの症状がだんだん悪くなって、発症10年で5割が亡くなってしまうのを、医師はただ見ているしかできません。なので、我々消化器内科医には、この病気を治したいと思っている人がすごく多いです」(桒田医師)