もはや国民病の「潰瘍性大腸炎」に光明、“100年の謎”解き、治療法を探り当てた医師たちの嗅覚とは国内患者が20万人を超える潰瘍性大腸炎、画期的な治療法とは(写真はイメージです) Photo:PIXTA

国内患者は20万人以上の「国民病」
社会生活もままならない実態

「絶望的な病気だとは思わないでほしい」――20年ほど前、「潰瘍性大腸炎」の名医に取材した際、そう言われた。「治療法はまだわかっていませんが、症状をコントロールすることで、普通の生活を送ることも可能だから」と。

 あれからずっと、この病気のことを気にかけて来た。

 潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にびらんや潰瘍が生じる慢性炎症性疾患で、原因はまだ完全には解明されておらず、日本では難病に指定されている。発病して7~8年すると大腸がんを合併するリスクが高まることも知られている。

 10代から60代、70代の高齢者まで幅広く発症するが、多いのは男女ともに20代。特徴的な症状は頻回に見舞われる血便、下痢、腹痛で、良くなったり(寛解)、悪くなったり(再燃)を繰り返す。症状が悪化している時期には、1時間に何度も下痢でトイレに駆け込まなくてはならない人もおり、社会生活に支障をきたすこともある。

「1970年代には患者さんはわずか数百人しかいませんでしたが、近年増加傾向にあり、日本では20万人以上、世界全体で500万人以上がこの病気を抱えています。今のところ、根本的な治療法はないため、患者さんは症状をコントロールしながら、病気と一生付き合って行くしかありません」

 そう語るのは京都大学の塩川雅広医師だ。

 ただちに生命にかかわる病気ではないが、人生に及ぼす影響は大きい。たとえば、10代で発症したある少女は、休み時間はトイレにこもる一方、授業中腹痛に襲われても「トイレに行きたい」と言い出しにくい、臭いおならがしょっちゅう出る、トイレの音を聞かれたくない、などが大きなストレスになって学校に行けなくなった。ただでさえ、小中学校では学校で「大きい方」をすることに抵抗を持つ子どもが多い。多感な時期に、この病気は残酷だ。

 また20代の会社員は、ある日高熱を伴う腹痛と下痢に襲われ、当初はノロウイルスのようなお腹に来るタイプの風邪かと思ったが、市販薬を飲んでも改善しない。通勤中も仕事中も頻回に下痢になるため、外出時は常にトイレを探すように。これはきっと重病だと病院に駆け込み、1~2カ月かけて検査を受け、診断がついた。薬が効き、症状は回復したが、再燃への恐怖があり、リモートで働ける仕事に転職した。人生設計は大きく変わった。