そんな中で、塩川医師らはある日、気が付いた。「潰瘍性大腸炎と原発性硬化性胆管炎はメカニズムが似ているんじゃないか」――というのも、この胆管炎がある患者は、日本人では3割、アメリカ人では7割ぐらいが、潰瘍性大腸炎を合併しているからだ。

「それで、原発性硬化性胆管炎を治すヒントを見つけるために、潰瘍性大腸炎を研究したことが、『抗インテグリンαvβ6自己抗体』の発見につながりました」(塩川医師)

世界が100年できなかった発見
研究のキーマンが感じた葛藤

 京都大学のチームは、これまで100年以上に渡り、世界中の研究者が追い求めて、見つけられなかった自己抗体を、研究開始からわずか12年で発見できた。その背景には、長年患者と向き合うことで獲得した知見と熱い思いがある。潰瘍性大腸炎への取り組みから得る知見もまた、原発性硬化症胆管炎にフィードバックされるだろう。

 近年、潰瘍性大腸炎に関しては、健康な人の便から取り出した腸内細菌を含む液体を内視鏡などで大腸に移植する「便移殖」という新しい治療法が登場し、保険診療と併用できる「先進医療」として認められている。まだ根本的な治療法にはなっていないが、塩川医師らは便移殖の進捗にも注目している。

「潰瘍性大腸炎が治せる病気になって、つらい思いをする患者さんをなくせるのであれば、治療法を見つけるのは我々以外でも構いません。便移殖の効果の仕組みには、抗インテグリンαvβ6自己抗体が関係しているはずです。治療の選択肢は多い方がいいので、便移殖の研究にも期待しています」(桒田医師)

 この重要な研究開発を成就させるためには、膨大な労力、時間、そして資金が必要だ。塩川医師らは治療薬開発プロジェクトチーム※をつくり、年間1億円、25年12月までに5億円を目標に寄付を募る活動をしているが、苦戦している。

 関心を持たれた方はぜひ、プロジェクトのホームページにアクセスし、支援をお考えいただきたい。

 私たちの研究と治療薬開発 | 潰瘍性大腸炎 治療薬開発 プロジェクト - 京都大学大学院医学研究科消化器内科

(取材・文/医療ジャーナリスト 木原洋美、監修/京都大学医学部附属病院 消化器内科 助教 塩川雅広医師、京都大学大学院医学研究科 客員研究員 桒田威)